赤い髪




月の明かりだけがほんのりと木々を照らす森の中。その幻想的ともいえる空間に1組の男女の姿がみえる。大きな木の根元に座るふたりの呼吸はともに乱れていて、身体は赤く染まっている。それが自分たちのものかそれとも返り血なのか、本人たちも定かではないようだ。女は不意に、赤くなってしまった男に吸い込まれるように手を伸ばす。
「どうしたの、零」
男は突然の行動に驚きながらも拒絶の素振りはみせない。むしろ抱きついてきた彼女をより強く抱きしめて、愛おしそうに頭を撫でている。
「わかんない。わかんないんだけどね、急に怖くなったの」
女は男の胸に顔を埋め、先ほど敵と戦った時からは想像もつかない程の弱々しい声をだす。
「……俺も、怖いよ」
「え……?」
「真っ赤染まった零を見て、零がいなくなっちゃうんじゃないか、って思った」
女の肩に頭を埋めているため表情は見えないが、その声はふるえ、掠れている。物理的に涙はでていないものの、心の中では嗚咽しているに違いない。暫く2人は抱き合っているが、そこに言葉はない。ただ、風で木々が揺れる音だけが響きわたっていた。








「零、おはよう」
「おはよう。それ、固まっちゃったね」
「零とお揃いは嬉しいけど、こんなの早く洗い流しに帰らなきゃね」
女が示す先には真っ赤に染まったままの髪の毛。銀色の髪に赤はよく映える。男は困ったように笑いながら女の髪をなでた。


「ねえ、帰ったら秋刀魚焼いてあげる」
「ほんと!? それなら尚更早く帰らなきゃね」
鳥のさえずりとともに、2人は力強く地面を蹴り上げた。






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