真っ直ぐにしか、愛せない




「木佐さん」

「あ、木佐さん!」

「ねぇ・・・木佐さん」

「木佐さんっ」

雪名が名前を呼ぶだけで、俺はいつも嬉しくなるんだ。




仕事が終わって、雪名の書店に足を運ぶ。
少し前まではただの客として、雪名の顔をこっそりと見るためだけに通っていた。

(今は、別にいいんだよ・・・こ、恋人なんだし・・・)

雪名と付き合い始めてからも、木佐は仕事が早く終われば書店に通っている。
だが一度も声を掛けたことはない。

それはただ単に仕事の邪魔をしたくないからだ。

ちらりとそっちを覗えば、カウンターで女子高生と楽しくお喋りしている雪名。
その後ろには、相変わらず花と星が飛んでいる。

(な、なにイラついてんだ俺・・・・あ、あれは、いわゆる営業スマイルってやつで・・・)

そこではたと、今自分がしている行動を振り返って、これでは嫉妬深い恋人の超迷惑な行動の上位ではないかと自己嫌悪する。

「もう、帰ろうかな・・・」

人を好きになるということが、今までの自分をどんどん変えていっているような気がしてならない。

(俺、こんなに他人に執着したことなんてなかったのに・・・)

木佐は書店を出て店の前でため息をつく。

(本当、何やってんだろ・・・)

「木佐さん!」

「え?・・・って、雪名!?」

「ああ、よかった」

「お、お前なんで・・・」

「俺が木佐さんに気が付かないわけないじゃないですか」

「・・・っ」

「俺、あと少しで終わるんで一緒に帰りませんか?」

「あ、あぁ・・・わかった」

「じゃあ少しだけ待っててください」

雪名はそう言って店に戻っていく。
まさか気づかれていたとは露ほども思わず、それだけでも嬉しいのに、追いかけて来てくれたことも嬉しかった。

(あれで素なんだから心臓に悪い)

「お待たせしました」

「い、いや、たいして待ってないから・・・大丈夫」

「あ、そうだ木佐さん」

「ん?」

「さっきお客さんが沖縄土産くれたんですけど、この後木佐さんちで一緒に食べませんか?」

「お・・・おう・・・」

「ふふ・・・」

「な、なに笑ってんだよ」

「いやぁ、木佐さんのさっきの顔思い出して嬉しくなっちゃって」

「さっき?」

「はい、俺が接客してるときの・・・」

「!?ばっ、い、言わなくていい!!!」

「えー?何でですか。俺すげー嬉しかったのに」

(こいつ、マジで・・・)

「なんでお前って・・・」

「え?」

「・・・いつも、言うこと直球なの・・・」

「え?それは・・・だって、俺、木佐さん相手だと真っ直ぐにしか愛せないから」

「な・・・っ!!」

「木佐さん、好き」

「・・・っ」


雪名は好きと繰り返して、木佐の唇を奪っていった。

雪名はいつも真っ直ぐで、自信なくして逃げ出しそうになってしまう木佐を、いつも全力で追いかけてくれる。

そんな雪名だからこそ、木佐はもっと雪名を愛おしく思うのだろう。


(そんなお前だから、俺は・・・)


「雪名、好き」

「はい」


(大好きなんだ)





END