※京介×マサキ♀ みんな一緒のクラス 言葉は乱暴、髪は毎日ちゃんとアイロンをあてながらも、背中まであるくせっ毛は寝癖みたいに跳ねる。それにスタイルなんかあったもんじゃない。胸は無いし背も低い。学校は当たり前に制服でスカートだけど、休日はジーンズまっしぐら。はっきり言って全然お洒落もしていないし可愛くもない。そんな私は叶うはずもない恋をひたすら願うのでした。 「おっはよー狩屋!」 「おはよう!」 「わっ、天馬くんに輝くん!…お、おはよう」 賑やかな廊下でひとり歩いていれば、いつものように同じクラスの天馬くんと輝くんに挨拶される。これはいつものことなんだけど、考えに耽っていた私は突然のことにびっくりして吃ったような返事をしてしまった。そんなことに疎い彼らが気づくはずもなく、挨拶をすればさっさと教室まで走って行ってしまった。ここ廊下なのに、そう思っていたら指導顧問に捕まったのか、二人の謝る声がここまで五月蝿いくらいに聞こえてきて思わずくすりと笑う。 賑やかだなあ。 賑やかなのは嫌いじゃないし、むしろそのほうが好きだ。だけど素直になれない私はそんな彼らに「うるさい」と喝破してしまうのだった。そのたびに彼らは、ナメクジが萎むときみたいにしゅるしゅると縮まるのだ。それは見ていて飽きない。 「…おはよう」 「…!」 背後からまた声をかけられてまたびっくりしてしまった。これでは私の心臓が持たない。返事をしようとしてはて、と思い返す。この心地いいテノールに、毎度聞いたことのあるような声は、まさか。 「つ、つる ぎ くん…?」 「? どうした狩屋」 「う…ううんなんでもない!おはよう!」 「おはよう」 しまった、慌ててたら声が裏返ってしまった。絶対「なんだこいつ」的な目で見てくるに違いないと思ったのに、剣城くんはなんでもないような顔でもう一度挨拶してくれた。これで惚れないわけがない。大事なことなのでもう一度言う、これで惚れないわけがない。 これで今日一日頑張れる。現金な私はそう思った。 「ねえ狩屋ってば」 「狩屋さーん」 「かり…」 「ああもううるさい!なに!?」 人が気持ちよく爆睡しているというのに隣で声をかけられ揺さぶられすればたまったもんじゃない。勢いのままに机を叩き立ち上がれば、一気にみんなの視線を浴びせられることとなる。その中には勿論先生の視線もあるわけで。そこでやっと自分は授業中に寝ていたんだと思い出す。 「……あ、」 「だから言ったのに〜狩屋ってば」 「あはは…」 輝くん、苦笑するのはやめなさい。 案の定、先生に授業後にこってり絞られて私の精神がヘトヘトになった。ちなみに私は怒られても全く懲りないので面倒だと思っただけ。長い長い説教なんてほんと肩が凝る。はあ、と溜め息をつきながら教室に戻るために廊下を歩いた。 「…あ」 向こうから歩いてくる男子だろうその人。あの目立つ学ランは、まさか。 「つ、剣城くん…!」 どうしよう。何故だか隠れなければいけないような気がした。私は咄嗟に曲がり角の陰に隠れてひっそりと剣城くんの様子を窺う。なにやっているんだろう、私。 疚しいことはなにもしていないのに。できるなら彼と話したいのに。そんな思いとは裏腹に体は勝手に動くのだ。ああ、せっかくのチャンスが終わってしまう。 「…なにをやっているのかは知らないが、早く戻ったらどうだ」 あれ、剣城くん誰と話をしているんだろう。独り言なんかじゃない、あれは誰かを呼び掛けているしゃべり方だ。私がさっきいた廊下には剣城くんと私以外いなかったはず。もしかしたら私が隠れている間に他の人が来たのかな。 「もうすぐで授業が始まるぞ。俺と一緒に行くのが嫌なら後から着いてこい、狩屋」 「………えっ…?」 狩屋?もしかしなくても私? そろりと壁に隠れて剣城くんを見れば、剣城くんと目があった。かあっと顔に熱が溜まるのを感じる。剣城くんは他の誰にでもない。初めから私に話しかけてたんだ。 「い、いつから気づいて…」 「さっきからだ。早く戻るぞ」 「え、あ、ま 待ってってば!」 「…!」 走って、勢い余ってそのまま大胆にも剣城くんの後ろから抱きつくような形になってしまった。え、私なにしてんの! 「あ ご、ごめ…」 「…別に」 ごめん、もまともに言えず慌てる私に、剣城くんは気にしてなさそうに返事をした。女子に、ましてや事故とはいえ抱きつかれても、剣城くんはなんとも思わないんだろうか。それほど私を女子と意識していないんだろうか。 薄々わかってたこととはいえ、こうもはっきりした形で知ることになるなんて。 剣城くんから目線を外す。こんな私と一緒にいるとこ見られたら剣城くんが困るだけだ。好きでもない女と根も葉もない噂をたてられたら、いくら冷静な剣城くんだって不快に思うに決まってる。そして私に話しかけてすらくれなくなって…それはいやだ! 「あ、あの ごめん剣城くん!私先に戻ってるね!」 「なっ…狩屋!」 そうだ、これでいいんだ。これなら変な噂もたつことない。剣城くんも困らない。チャンスだったんだけど、せっかく話しかけてきてくれたんだけど。これが剣城くんのためなんだよ。 剣城くんの声も無視して廊下を走った。さっき天馬くんたちに注意していたのにおかしいの。もとより、こんな女らしさもない私に、かっこいい剣城くんが振り向いてくれるはずないか。 「次の授業、サボろうかな」 私は今、どんな顔をしているのだろう。 |