おまえに神童は振り向かせられないよ。おまえなんかじゃ無理だ、諦めな。
そう言ったのはむかつくくらい鮮やかなピンクの色をした先輩だった。鼻で笑って馬鹿にするその先輩に、俺はなにも言い返せなくて黙ってしまう。図星だった。現に何回もアプローチしているものの、するりとかわされ全く気づいてくれやしない。どうしてこの先輩はこうも鈍感なんだ。他人のことならまだしも自分自身のことにまで色恋に欠けているなんて。
これは一縄じゃいかなさそうだ。かり、と唇を噛んだ。



「キャプテン!」
「ん?狩屋か どうし…」
「どうした狩屋 神童になんか用か」
「げっ」

俺はキャプテンが一人きりなのを狙って話しかける、が どこからともなくピンクの先輩が現れる。俺はあんたに話しかけたんじゃない。キャプテンに話しかけたんだ。
ひきつる顔に対してピンクの先輩は意地悪そうな顔をしている。どうして俺とキャプテンの邪魔をするんだ、そんなに俺が気に入らないか。幼なじみだかなんだか知らないが、キャプテンに親友以上の感情も持っていないあんたに邪魔される筋合いはない。
勝手に火花を散らしている俺たちに、キャプテンはわけがわからないような顔をしていた。きょとんとしたキャプテンの顔はすごくかわいい。ようやく赤い瞳が俺をみてくれたかと思うと、軽い優越感に襲われる。

「えっと…ナンデモナイデス」
「そうか じゃあ行こうぜ神童」

だからあんたじゃねえよ!
キャプテンがいるのにも関わらず、思わずそうツッコミをしてしまうところだった。さりげなくキャプテンの肩を抱く憎たらしい先輩に睨み付ける。けど背中を向けている先輩が気づくはずもない。
気づいたところで、また鼻で笑われるだろうけど。

ああ、キャプテンが行ってしまう。そっと裾を掴んでしまいそうになった手は空を切った。そのとたん、キャプテンが心配そうにこちらを見たあと先輩に言ったのだ。

「こら霧野、狩屋が話したそうじゃないか。無視したら駄目だぞ」
「えっ…神童……?」
「狩屋 本当にどうしたんだ?何かあるんなら言ってみろ」

まだ何か言いたそうな先輩を一蹴りして、キャプテンは俺のところまで戻ってきてくれた。それはキャプテンとして俺を見捨てておけないというだけなんだろうけど、キャプテンが先輩を放って俺のところに来てくれたかと思うと嬉しくて。
納得しないような顔で、キャプテンの後ろで俺を睨む先輩。よほど気に入らなかったんだろう、ざまあみろ。

「実はなかなか体力がつかなくて悩んでて…部活の後で一緒に練習相手を探してたんです。」

そんなの嘘に決まってる。部活だけでも面倒なのにその後にまで練習だなんてかったるくてやっていられない。その嘘に直ぐ様気づいたんだろう先輩は、今にも俺に殴りかかりそうな雰囲気だ。鈍感なキャプテンのこと、先輩は気づいても、キャプテンは気づかないだろう。

「狩屋…頑張り屋なんだな!」

ちょろい。俺を全く疑いもしないキャプテンは完全に信用しきっている。こうも疑うことを知らないと、俺としては都合がいい。俺がキャプテンを好きな理由のひとつでもある。

「俺でよければ相手になるぞ!」
「なっ…神童…!」
「良かった〜よろしくお願いしますキャプテン!」
「おい狩屋お前…!」
「霧野も一緒に練習するか?」
「えっ」

キャプテンだけならいいものの霧野先輩も一緒に練習…!?これは色々と厄介だ。絶対に俺の邪魔をしてくるに違いない。それにせっかくキャプテンとふたりきりなのに先輩に邪魔されてたまるか。

「霧野先輩は用事があるんですよねー?」
「はあ?」
「そうなのか霧野…?」
「ち、ちが…」
「霧野先輩は用事があるみたいなんで俺たちだけでやりましょう、キャプテン」
「そっか…そうだな…」

これも嘘。今日は根も葉もない嘘がぽんぽんと出てくるから不思議だ。
霧野先輩の言葉を遮って無理矢理丸め込んだ。霧野先輩が不参加ということでキャプテンはしゅん、と悲しげに眉を寄せる。なんだよそんなに霧野先輩がいないと不満なのかよ、俺じゃ駄目なのかよ。
そう思ったら、先ほど霧野先輩に言われた台詞が頭を過った。


おまえに神童は振り向かせられないよ。おまえなんかじゃ無理だ、諦めな。


ちら、と霧野先輩を見れば、さっきの顔とは打って変わって満足そうに口角を上げている。気にくわない。なんでこうもこのピンクの先輩には勝てないんだろうか。
ああもう、早く俺の物になってよ キャプテン。