※蘭拓、輝マサ
流血有のサバイバル(殺し合い)ゲーム
超次元なんで細かいことはスルーしてください




「どういう……俺だけじゃなかったのかよ…」
「みたいだね…わけがわからないよ、僕」
「これでわかったやつがいるんなら、ソイツ頭おかしいんじゃねーの…」

かさり、狩屋が制服のポケットから出したのは一枚の紙切れ。白い紙とは反対に赤で綴られているそれはけして綺麗とは言いがたい字だ。影山が持っているその紙と狩屋が今出した紙を照らし合わせてみれば、瓜二つといったところだろうか。
「放課後までサバイバルゲーム。赤とピンクは敵。」
二人の紙にそう書かれてあったそれには差出人の名前は記入されていない。下駄箱にそれが入っていた狩屋は、タチの悪い悪戯かと思いくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てようとした。けれどどこか悪い気がして、捨てようとした手を引っ込めたのだった。そして一時間目終わりの休み時間、狩屋は訳がわからないまま影山に連れ出され、綺麗に折り畳まれた紙切れを見せられた。その紙切れは自分の下駄箱に入っていたものと同じもので、狩屋も同じものが入っていた、と影山に告げたのがさっきのこと。偶然にしては気味が悪い。
落ち着きがなさそうにそわそわしている影山に、くだらないと呟いて溜め息を吐く狩屋。どうせ俺らを良く思わないやつが悪戯をしたに決まってる。狩屋はそう思っていた。影山は狩屋の思うことに一理あるとも考えたが、なにか納得いかない。乱暴に綴られた赤い文字をそっと眺めた。

「ねえ狩屋くん。これ『放課後まで』ってことはもう始まってたりするのかな…このサバイバルゲーム…。」
「んなもん適当に書いたに決まってるだろ。輝くんは真面目に受け取りすぎなんだってば」
「そう…かなあ…」
「そうそう」

もうすぐ授業始まるし戻ろうぜ。狩屋がそう言って時間をみれば、始まる3分前くらいに針が止まっている。影山は慌ててそうだね、と言って紙切れをポケットにしまった。

二人の足音が消えた頃に、物陰からまたふたつの影が現れる。ひとりはつまらなさそうにふうん、と呟き、もうひとりは生唾をごくりとのみ込んだ。

「やっぱりあいつらか…」
「…なあ、やっぱりこれは何かの間違いだよ。もう一度調べてみてから…」
「……間違い、だったらいいな」
「え?」
「なんでもないよ」

綺麗なピンクの色をした彼は、もうひとりの彼の頭を撫でた。目は虚ろで、目線は彼に向いているものの心はどこかへ行っていた。赤い瞳をした彼はそんな彼に気づくはずもなく、黙って瞳をとじた。




「…え?霧野先輩が?」
「うん。僕に来いってさ」

そして二時間目終了後の休み時間。狩屋は眠たそうに目を擦りながら欠伸をする。影山はそれに困ったように笑うと、話を続けた。

「終わりのチャイムがなったと思ったら霧野先輩が僕のとこまで来てさ。『来い』ってただそれだけ」
「えっ なら早く行かなきゃじゃん!なんで俺と話してんだよさっさと行けよ!」
「急に僕がいなくなったら狩屋くん、寂しいかと思って。一応狩屋くんに言っておこうかなって」
「だっ…誰が寂しがるか!」

かっと顔が赤くなる狩屋はみていて飽きないし面白い。影山はひっそりとそう思っていた。
影山はそのあと、なにか閃いたようにそうだと呟くと、「狩屋くんも一緒にくる?」と提案したのだった。それに断る理由もなく頷けば、影山はにっこり笑った。


霧野に指定された教室に入る。カーテンは閉めきって薄暗い。空気も生暖かいということは窓も閉めているのだろう。あまりの居心地の悪さに、狩屋はうげっと漏らしてしまった。

「遅かったな…ああ、狩屋も一緒か」
「あ、はい」
「なんだよ俺が居ちゃいけないみたいな…」
「いいや…」


「やっぱりな」

独り言のように呟かれたそれは、影山と狩屋の耳に届くことはなかった。呼び出されたわけがわからない影山は霧野に話しかけようとしたが、腹部に激痛が襲ったせいで言う言葉は閉ざされた。壁に叩きつけられた影山が見たものは、さっきまで自分がいた位置に霧野が立っていたことだけだった。その顔は笑っている。

「いっ…」
「輝くん!」
「だ、大丈夫だから…」
「アンタ…どうして輝くんを蹴ったりなんか…!」

狩屋の台詞から察するに、影山は霧野に蹴られたようだ。先ほどの腹部に激痛が走ったのはそのためか、影山は追い付かない頭で必死に整理をする。蹴られた腹の痛みと、壁に叩きつけられた背中の痛みで起き上がれそうにない。影山のそばへ行こうとする狩屋を霧野が見逃すはずがなく、直ぐ様持っていた鋏を取りだし狩屋の喉元へと先を向けた。

「っ…」
「狩屋くん!」
「仕方ない、仕方ないことなんだよこれは。お前らにわかるか?」
「い、意味が…」
「そうだろうな。お前らにわかるはずもないよな」

霧野はそう言い、狩屋の喉元に向けた鋏を一旦引っ込め、投げた。投げた鋏は狩屋の頬を掠め、壁に突き刺さる。狩屋の頬からは鮮血が流れだし、やっとのことで痛みを知らせた。
狩屋は唾をのみこんで、唖然として霧野を見るばかりだ。状況整理が追い付かない。

「これを見ろ」

霧野が取り出した白い紙切れは、二人が見覚えのあるもの。尚更整理がつかなくなった。
ただ唯一二人の紙切れと違うところがあるとすれば、『青と紫は敵』の記述だけ。自分たちのところは赤とピンクだったのに、霧野が持っているそれは色指定が変わっている。

「先輩も持ってたんだ…」
「…俺ははじめ、青と紫ってなんのことかと思った。けどお前らが俺と同じ紙を持っていることがわかって、漸く狩屋と影山を指していることに気づいたんだ」
「青と…紫…」
「だからお前らを呼び出して殺そうと決めた」
「ころ…!」
「影山を呼び出したら狩屋もついてくるだろう、そう思ったからだ。案の定狩屋までついてきてくれて…俺は嬉しいよ」
「え…」

霧野の台詞が脳に入ることはなく耳から耳へ抜けていく。この人がなにを言っているかわからない。狩屋と影山は冷や汗を浮かべて呆気にとられていた。
殺すだとか、意味がわからない。目の前の人は本当に霧野先輩なのだろうか。後輩に優しく、時には厳しく指導をしてくれた霧野先輩とは到底思えなかった。もしかしたらこの人は霧野先輩ではないのかもしれない。どこかで二人はそう思っていた。

「…わけわかんねえよ……」
「わからない?どうして?お前らの紙にも書いてあったはずだろ。『赤とピンクは敵』だって」
「……まさかピンクって…!」
「俺だよ」

あっけらかんと言ってのける霧野の表情はさっきから変わらないままだ。わからなかった空間に、少しずつピースがはめられていく。ピンクが霧野、ならもうひとりの赤は。

「…なら赤って…?」
「……」
「先輩!」
「……神童、神童だよ」
「…!」

霧野の口が一瞬躊躇いが見えた。神童、と発せられたその口は震えている。このとき初めて、霧野が弱々しく思えた。

「で、でも!これって何かの冗談じゃないんですか?殺し合いみたいな…ゲームじゃあるまいし!」
「ゲームだよ、サバイバルゲーム。紙にそう書いてあったろ。…それに…俺だって冗談だと思いたい!」

叫ぶ霧野の拳に避けきれず、今度は狩屋の腹に霧野の拳が命中した。狩屋を殴った後、霧野は苦しそうに肩で息をする。このままでは狩屋が危ないと、影山は体に力を入れる。悲鳴をあげる体に鞭を打ち、狩屋を庇うようにして霧野の前に出る。

「ひ、ひかる くん」
「霧野先輩!どうしちゃったんですか…なんでこんな…!」
「お前に…お前になにがわかる!」
「っげほ…」
「輝くん…!…もう…もうやめろよ!どうして…霧野先輩…」
「黙れ!」

影山を蹴って退ける霧野はどこか悲しそうで、その悲しみを消すように怒声を響かせた。狩屋と影山は、霧野が自分たちを殺すことになんの戸惑いもないことに疑問を抱いていた。例え誰かの命令で殺せなんて言われても、霧野なら命令を背くだろうとふんでいた。
その霧野が、命令に従い自分たちを殺そうとしている。それに誰が書いたのか、悪戯かもしれないそれを、霧野は正直に受け入れていることも不思議でならなかった。

霧野は狩屋の首を力いっぱいに絞める。苦しそうに顔を歪ます狩屋に、影山は動けずにいた。狩屋が苦しんでいるのに助けてやれない、足が床に張り付いて動けない。助けなければ、助けなければと考えれば考えるほど動けなくなっていく。

「ぐっう…」
「…影山、狩屋を助けたいだろ?けど助けたいのに動けないんだろ?俺も同じだよ…」
「…え」
「俺も…あいつを助けたいのに動けない。だから…こうするしか道はないんだ!」
「がっ…」
「っ狩屋くん!」

霧野の手の力が込められた瞬間、影山は先程霧野が投げた鋏を引き抜き、霧野の手の甲にそれを突き刺した。痛みで狩屋の首から手は離され、その隙に狩屋を自分の腕の中へと閉じ込めた。
悲鳴と共に霧野の手の甲からは血が止めどなく溢れ出す。影山は霧野の痛みをそのまま受けとるかのように苦い顔をする。ちら、と影山が狩屋を見れば、気絶しているようだった。

「俺は…俺はお前らを殺さないと…」
「なんで!どうしてそんな…」
「大切な人を人質に取られた俺の気持ち…お前にわかるかよ!」
「…な…!?」
「だから俺はお前らを殺す…殺さないといけない…!」

霧野は歯を噛み締めて鋏を抜く。抜かれたことで、血がさっきよりも流れて止まらない。ふきだす汗を拭うことなく、霧野の目は焦る色をみせる。

「あの紙と一緒に…あるものが入ってたんだよ。なんだと思う?」
「…なんなんですか?」
「写真だよ、神童の写真」
「先輩の…?」

それがさもおかしいみたいに霧野は笑い出す。その光景が憐れで仕方なくて、影山は悲しそうに眉を寄せることしかしない。

「咄嗟に俺は思ったね。あの紙の指す奴らを殺さないと、神童が危ない目にあうんだって」
「そんな、でも神童先輩は赤の人じゃあ」
「そうだよ、赤だよ。…まあ、とりあえず俺は差出人が誰だろうが神童に手を出されて欲しくない。だからこうするしかない。俺はこうすることしか方法を知らない」
「先輩!」
「今は無事で教室にいるけど…いつ危険にさらされるかわからない」

「だから、死んでくれよ」

神童の為に。
蒼い瞳がきらりと光る。鋏を持った手は力を込めて、影山へと向けられる。後ろが壁で逃げ場がない影山は、諦めて目を瞑った。
鈍い音と共に影山の手に血がついたが、当の影山本人は目を丸くさせるだけだ。影山は不思議だった。鋏で刺された筈の胸が痛くなかったのだ。どうして、と困惑した頭で考えていると、黄色く光る目が近くにいたことがわかった。


「……え……どうして………狩屋、くん…?」

その黄色く光る目はさっきまで気絶していた狩屋で、狩屋は影山の前で胸から血を流していた。