時は流れタマキは三年生になっていた。
相変わらずキヨタカのクラスでどきどきした日々を過ごし、放課後は国語科準備室で勉強を教えてもらっていた。
おかげで志望校にも合格し、晴れて待ち望んだ卒業式を迎えたのだった。
教室でキヨタカの手から卒業証書を受け取るときに、優しく微笑んだ目は自分しか知らない。
キヨタカの最後のホームルームを始めた。
こうやってここから恋人を見てどきどきするのも最後かと思うと、少しセンチメンタルな気分だ。
しかし二人の関係は終わる訳ではない。
むしろ今日から始まるとも言えるのだ。

「みんな卒業おめでとう」

最後にこう締め括ってキヨタカのホームルームは終わった。
解散になってホッと息をついたキヨタカを早速生徒たちが囲んでいる。
生徒から慕われているなんて、よく知っていたことだけど改めて実感した。

「タマキちゃん、キヨタカ先生と写真撮りたいの?」
「え、なんで?」
「じーっとあっち見てたから」

行こうと強引に引っ張られてキヨタカの隣に立たされた。
付き合うようになって、人目のあるところではなるべく近付かないようにしていたので新鮮な気分だ。
そういえば二人で写真を撮るなんて初めてかもしれない。

「タマキちゃん、カメラ貸して」

素直にデジカメをアラタに手渡す。
キヨタカは少し困ったように笑っている。
人気者は辛いな、なんて照れ隠ししなくたって自分しか気付いてないのに。
アラタの掛け声に合わせてポーズを取る。
数秒の間を置いてアラタが笑顔でカメラを返してくれた。
画面の中の自分の笑顔に驚いていると、次はアラタのカメラを手渡された。

「次は僕も撮ってー」

キヨタカの隣で笑うアラタに微笑んでカメラを構える。
そうこうしているうちにキヨタカの周りには他のクラスの生徒までが集まってきてタマキ達はその場所を離れた。
三年も同じクラスだったアラタとカナエと三人で写真を撮り合う。

「転校してきてすぐに仲良くしてくれて、ありがとう」

この二人がいてくれたから、楽しく学校生活が送れたんだと思う。
バラバラの学校になってしまうけど、きっとこの関係はずっと続いていく。
三人で笑い合っていると、後ろから名前を呼ぶ大きな声が聞こえた。

「タマキ!卒業しちまうのか・・・」
「当たり前だろ?三年なんだから」

振り返るとしゅんと耳を垂らした犬みたいなカゲミツと、呆れた表情のオミが立っていた。

「俺があと一年早く生まれたらタマキと卒業出来たのに・・・」
「カゲミツ何言ってんだよ」

笑って言うとカゲミツが恥ずかしそうに口ごもった。
小さな声に耳を傾ける。

「・・・第二ボタンくれねーか?」
「俺のならいつでもあげるよ」
「お前のはいらねー!」

答える前にオミが口を挟んだ。
するとさっきまでの小声が嘘みたいにカゲミツが噛み付く。
この二人のやり取りを見るのも楽しかったな。
第二ボタンを取ってカゲミツに手渡す。

「男の俺のでよかったら、やるよ」
「タマキ・・・」

嬉しそうに笑うカゲミツにつられてタマキも笑う。
転校先がこの学校で本当によかった。
みんなの顔を見渡してから口を開いた。

「みんなに会えてよかった、ありがとう」

笑顔のアラタとカナエ。
またしゅんとしてしまったカゲミツの頭をオミが優しく撫でている。

「いつでも会えるんだからそんな言い方やめてよ」
「改まって言われると照れるな」

アラタとカナエが言うとオミも続いた。

「俺はよくなかったけど」
「オミ!・・・それよりまた、会えるよな?」
「当たり前だろ?」

そうして話していると他のクラスメイト達がやってきて、再びみんなで写真を撮った。



散々騒いでから帰宅すると携帯にメールが届いていた。
今日は三年担任の教師で飲み会だと言っていたから、その合間にくれたのだろう。
わくわくした気持ちでメールを開く。

「卒業おめでとう。これからは気兼ねなく会えるな。」

さっぱりとした短い文章がキヨタカらしい。
頬に熱が集まる。
ばくばくする心臓を抑えてメールを返した。

「早くキヨタカに会いたい」

短い文章にありったけの気持ちを込めて。
Restart

end*
長い間お付き合い下さり、ありがとうございました!
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