「うるせ!」
「ちょっとカゲミツ、痛いんだけど」

また、だ。
目の前でじゃれ合うカゲミツとオミを見て顔をしかめた。
軽い言葉の応酬は仲の良い友人そのものだ。
なんだけれど。
殴り掛かろうとするカゲミツの手を掴んで受け止めているオミを見ていると、やっぱり少しの嫉妬を感じずにはいられないのだ。

カゲミツの告白を受けて付き合い始めて。
一緒に住まないかという提案は全力かつ丁寧に拒否され、折衷案として毎日夕食はタマキの家で食べることになった。
しかし恋人という関係になって数週間も経つというのに、キスはおろか、まだ手を握ったことすらないのだ。
オミとはあんなにガッシリと手を掴んでいるというのに。
そう思うと、胸が沸々とするのも仕方がないと思うんだけど?

いつものように二人でタマキの自宅に帰り、食事を作って二人で食べる。
そうして食後にまったりとしていたときに、思い切って二人の距離を少し詰めてみた。
腕や太ももがほんの少し触れる。
カゲミツって意外と体温が高いんだな。
一体今どんな顔をしているのだろう?
照れてはにかんでたりしてくれるかな?
どきどきした気持ちでカゲミツの顔を見上げると、予想に反してぎょっとした顔が目に入った。
一瞬の間を置いて、カゲミツがずるりと体をひいた。
好きだと言ってくれたのはカゲミツなのに。
正直、かなり、傷付いた。

「・・・オミとはガッチリ手を握れるくせに、なんで俺が触ろうとすると逃げるんだよ!」
「ち、違う!」
「俺達付き合って数週間も経つのに、まだ手すら繋いでないだろ!?」

だから違う、だけでは説明にならないし納得出来ない。
グッと顔を近付けると真っ赤な顔をしたカゲミツがブンブンと両手を振った。

「それ以上近付くなって・・・」
「どうして!?」
「気になるだろ、俺臭くねぇかなとか・・・」

しゅんと目線を斜め下に落としてポツリと呟いた。
予想外の答えにぐつぐつと沸騰していた怒りがすっとひいていく。

「・・・どういうことだ?」
「タマキと二人でいるとどきどきして、汗かいてんじゃねーかとか考えちまって」

だからほら、とカゲミツがもう一人分体をずらす。
頬をかく動作がなぜか無性に可愛く見える。

「手くらい繋いでくれたっていいだろ?」
「手汗でぐっちょりしてたら嫌だろ」

なんだ、そんなことをと思うほどの小さい理由。
けれど当のカゲミツにとってはとても大きな問題だったんだろう。

「・・・好きだから触れたいけど、好き過ぎて触れられねーんだよ」

小さく呟かれた言葉が嬉しくて、ぎゅっとカゲミツの体に抱き着いた。

「お前は俺の恋人だろ?だったらそんなこと気にするなよ」

胸に顔を埋めたままカゲミツの手を取る。
ここまでしたのだから、後は自分から指を絡めて欲しい。
どくんどくんとカゲミツの心臓が忙しく動く音が聞こえる。
躊躇いがちに手の平を重ね、いよいよかと思った瞬間パッと手を離された。

緊張しすぎて手も握れない!
(ヤキモキとする右手が今は心底愛おしい!)

by転寝Lamp様(恋人初心者たちの五つの悩み)
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