長年の思いが通じタマキの恋人として初めてのクリスマス。
誰かと過ごすなんて初めてのことだから分からないことだらけだ。
高級なレストランに行くべきなのかとか、プレゼントはどうしようとか。
当然のように二人で過ごすと考えていたカゲミツに、タマキは笑ってこう言ったのだ。

「その日はバンプアップでパーティがあるぞ?」

ニッコリと擬音語がつきそうな眩しい笑顔にカゲミツが固まる。
何だそれ?クリスマスは恋人と二人っきりで過ごすもんじゃないのか?
ぐるぐると回る思考を整理して、ふぅと一息ついてから訊ねた。

「タマキは行くのか?」
「カゲミツも行くだろ?」

楽しみだなぁと続けられた言葉にガックリと肩を落とす。
二人っきりで、と思ってたいたのは自分だけだったようだ。
色々考えていた自分が独りよがりみたいで急にバカらしく思えてきた。

「交換用のプレゼント一緒に買いに行かないか?」
「ごめん、まだ仕事があって・・・」

そうかとあっさり引き下がったタマキの背中を見送る。
本当は仕事なんてなかったけど、どうしても一緒に行く気分にはなれなかった。

結局鬱々とした気分が晴れないままに当日を迎えてしまった。
キヨタカの計らいでその日は全員休みになり、バンプアップを貸切にして朝からパーティの準備が行われた。
ユウトと楽しそうに店内の飾りつけをするタマキを横目で眺めているとヒカルに声を掛けられた。

「まさかお前らも参加するとはな」
「タマキが参加する気満々だったからな」

吐き出すように答えるとヒカルが楽しそうに笑った。
人が落ち込んでるっていうのに面白がりやがって。

「そこはカゲミツが二人で過ごしたいって押し切るとこなんじゃねーの?」
「・・・楽しみだって言われて、そんなの言えるかよ」
「だからお前は・・・、まぁせいぜい楽しめよ」

タマキに無理矢理被せられたサンタ帽をポンと叩いてヒカルはキヨタカの元へ行った。
あの二人はなんだかんだで近くにいるんだよなぁ。
もう一度タマキをちらりと見遣っても店内の飾りつけに夢中のようだ。
やっぱり初めてのクリスマスは、二人だけで過ごしたかったな・・・。

パーティが始まり、J部隊の面々はそれぞれに盛り上がっていた。
トキオの手作りだという料理を食べ、今日は飲み放題だとマスターに酒をオーダーする。
カゲミツは一人カウンター席に座り盛り上がる仲間の姿を見ていた。
タマキはキヨタカと談笑している。
ちょっとくらい気に掛けてくれるかな、なんて期待は外れてしまった。

「カゲミツ、ちゃんと食べてる?」
「今食欲ねぇ」
「あ、そう。全然楽しくなさそうだね」
「俺なんか気にしないであっちに行けよ」

一人で酒を飲んでいるとオミが声を掛けてきた。
追っ払ったつもりがオミは寂しそうだからと隣に座ってきた。

「別に・・・寂しくねーし」
「そうやってすぐ拗ねる」
「だから、」
「タマキが構ってくれいなからって怒るなよ」

図星を指されて何も言えないカゲミツにオミが笑った。

「ほら、やっぱり寂しいんだろ?」

フッと笑ったオミの何も言えない。
追っ払う気も何だかなくなってしまった。
しばらく二人で酒を飲んでいるとキヨタカがプレゼント交換の時間だと口を開いた。
みんなで円になりプレゼントを横に回す。まるで小学生みたいだ。
しばらくすると音楽が鳴り止んだ。誰のプレゼントだかは分からない。
カゲミツが用意していたプレゼントはオミの前にあった。
これは誰のプレゼントだろうと思っているとまたキヨタカが口を開いた。

「よし、じゃあみんなであけるぞ」

タマキのプレゼントだといいな。
ドキドキしながらプレゼントの包みを取ると中に入っていたものを見て、がっかりした。

「カゲミツ君は俺のだね」
「非力なお前にピッタリだな」

箱の中にはプロテインが入っていて、考えるまでもなくナオユキのプレゼントだと分かった。
キヨタカの一言が余計に落胆を大きくさせる。
それ俺のだとタマキが言った視線の先はカナエで胸がちくりとした。
こんなことなら、一人でワゴン車にいた方が良かったかもしれない。
お開きだと言われて片付け始めたみんなをぼんやりと眺めているとタマキに引っ張られた。

「今日は全然話せなかったな」
「そうだな」

不機嫌そうに言われても困る。
全然気に掛けてくれなかったのはタマキだろと言いたいのをグッと堪えた。
腕を引っ張るタマキの力が強くて少し痛い。

「カゲミツはオミとばっかり話して」
「はぁ?アイツが勝手に隣に座ってきただけだ」
「俺はこっちに来てくれるの待ってたのに全然来ないし」

だったらタマキから来てくれればいいだろと言い掛けて口を噤んだ。
だからお前はと呆れていたヒカルの顔が脳裏に浮かぶ。
そうだ、自分からタマキの隣に行けばよかったんだ。

「ごめん、そこまで気が回んなくて」
「今日は仕事残ってないよな?」
「え?あ、うん。今日は別に・・・」

じゃあとタマキは小さく言うと部屋の中に叫んだ。

「俺達用事があるのでお先に失礼します」
「え?!」

驚くカゲミツをよそにタマキは腕を引っ張ったままバンプアップを出た。
後ろから冷やかす声が聞こえて顔が熱くなる。
タマキの家へと向かう道に出て、腕を解放されたと思ったら指を絡められた。

「タ、タマキ?」
「カゲミツには別にプレゼント用意してるから」

だから今から俺の家で過ごそう。
そう付け加えたタマキは恥じらいながらの上目遣いで、今までの落ち込んだ気分がウソみたいに晴れて行く。

「ちなみに明日も休み取ったから」

小さく呟かれた言葉は心臓を跳ね上がらせるには十分で絡めた指にぎゅっと力を込めて家路を急いだ。

the jolly Christmas!
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