ウソとかホントとか、

「今日タマキの家に行ってもいい?」

と珍しくカゲミツからの誘いがあった。
特に予定のなかったタマキは二つ返事で了承し、数時間後、カゲミツは缶ビール持ってタマキの家を訪ねていた。

「珍しいな、お前から家に来たいなんて言うなんて」

手土産の缶ビールを冷蔵庫に冷やしながらタマキは笑う。
まぁいろいろ話したいことがあったんだよとカゲミツも笑いながら答える。
缶ビールとともにおつまみまで買ってきていた用意のいいカゲミツのおかげで、すぐに二人だけの宴は始まった。
日常のことや部隊のこと、くだらない話で笑いながら二人で飲む久し振りの酒はどんどん進んでいった。

「結構買ってきたつもりだったんだけど・・・飲み切っちまったなぁ」

缶ビールがなくなり、さきほどまで盛り上がっていた会話も途切れてしまった。

「あ、じゃあ俺買ってくるよ」

財布を手に取り立ち上がろうとしたが、カゲミツに抱き締められて阻止された。

「タマキ・・・」
「何してんだよ!酔ってんのか?」
「酔ってねぇ」
「じゃあ何なんだよ!」

カゲミツはタマキの問いには答えず首元に顔を埋めた。

「無理すんなよ」
「な、何がだよ・・・」

抵抗しようとしていた腕が、だらりと降りる。

「まだあいつのこと・・・好きなんだろ?」

カゲミツの、切なそうな声にタマキがぴくりと反応する。

「・・・ほっとけよ」
「ほっとけねぇよ」

カゲミツはそう言うと遠慮がちにタマキの顎に手をやった。
なにすると言い掛けるタマキに緊張した面持ちで顔を近付けた。

あまりに突然のことで抵抗する間もなく、タマキはキスをされていた。
啄むようなキスを繰り返していくうちにどんどん深くなっていく。
あまりの気持ちよさに、どんどん溺れる。
気付けばタマキはカゲミツの背中に手を回して自らも舌を絡めていた。
しばらく貪るようなキスに夢中になっていたが、タマキがカゲミツの肩をとんとんとしたのをきっかけに離れた。
目が少し潤んで、顔は上気して赤くなっている。

「なんでこんなこと・・・」

タマキの目が潤んでいるのは、キスのせいだけではないことにカゲミツは気付いた。
きっと、途中で、カナエのことを思い出していたのだろう。
そんなタマキを見て、カゲミツは優しく抱き締める。

「俺がアイツの代わりになってやる、力不足かもしんねぇけど」

腕の中のタマキが震えているのが分かった。

「お前を代わりには出来ない。そんなの都合が良過ぎるだろ!」
「都合良くたってお前がアイツを忘れるんだったらやってやるよ!」

カゲミツの言葉にタマキは俯いて服の袖をぎゅっと掴む。

「弱ってるときにこんなこと言うなんて、ズルイかもしれない」

でもお前には、・・・笑っていてほしいんだ。

そう言って再び唇を重ねようとするカゲミツに、タマキはありがとうと呟いて背中に腕を回した。


ウソとかホントとか、そんなことはどうだっていい。
ただ、タマキが悲しみから抜け出せるなら。
悲しみの先にたどり着いたとき、あわよくば、隣にいるのが自分であればとカゲミツは思う。
ウソから始まるこの恋が、いつかホントになればいい。
そう思いながらカゲミツはタマキを優しくソファーに押し倒した。

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