ワゴン車に帰って先程自分がした宣言をカゲミツは思い返していた。

「俺、明日告白する」

とんでもないことを言い出してしまったけれどもう後には引けない。
自分の気持ちが届くことがないのを分かっていて告白するなんて茶番だ。
それでもタマキに気持ちを伝えずに終わるよりか伝えてきっぱりフラれる方がいい。
言ってしまったら今までの関係が崩れてしまうんじゃないかと心配になるけど、タマキは優しいからきっと大丈夫だ。
シートに横になってもぐるぐる回る思考にカゲミツはなかなか寝付くことが出来なかった。

「はよー」
「カゲミツ、おはよう」

朝ミーティングルームのドアを開くと真っ先にタマキに声を掛けられた。
嬉しいはずなのに今日は心がぎゅっと締め付けられてしまう。

「今日頑張れよ」
「あ、あぁ・・・ありがとう」

告白したいのはタマキ、お前だよ。
そう言いたいのを必死に我慢して無理矢理笑顔を作った。


タマキに告白する。
そんなことを考えているうちに一日が終わってしまった。
仕事は全くと言っていいほどはかどらず、あのキヨタカに心配されるくらいだからよっぽど酷かったのだろうとカゲミツは思う。
時刻はもう20時過ぎだ。
なのに今だ一人でワゴン車で悩んでいる自分に嫌気がさす。
帰り際にタマキが言った何かあったら話を聞いてやるという言葉を思い出す。
このままうじうじしているのかとカゲミツは自分を奮い立たせた。
ポケットから携帯を取り出し、電話帳の中からタマキの名前を表示させた。
数秒のコールの後、やけに明るいタマキの声が聞こえた。

「もしもし?今から少し時間あるか?」
「あぁ、バンプアップでいいか?」
「今日は違うところに行きたい」

さすがに知り合いがいる中でフラれるのはダサイし、タマキも居心地が悪いだろう。
どこかいい場所がないかと考えているとタマキの声が聞こえた。

「カゲミツさえ良ければうちに来ないか?」

閉店もないし潰れても大丈夫だからとタマキは早口で付け加えた。
タマキの家なら告白も誰にも聞かれなくて済む。
カゲミツは分かったと答えてワゴン車を出た。


「早かったな」

インターフォンを鳴らすと妙に明るい顔をしたタマキが出てきた。
フラれたと思って元気付けようとしてくれているのかも知れない。
とりあえず中に入れよと部屋の中に招き入れてくれた。

「酒買ってこればよかったのに」

あんまりストックないんだよなぁとキッチンに向かったタマキを呼び止めた。

「タマキ!」
「どうしたんだ?」
「酒はいいから、・・・話を聞いて欲しいんだ」

カゲミツの真剣な表情に気圧されてタマキは頷いた。
向かい合うように座りじっとカゲミツの顔を見つめる。

「昨日好きな人がいるって言っただろ?」
「あぁ」

先程まで明るかったタマキの表情が突然曇った。
やっぱり無理して明るくしてくれていたのだとカゲミツは申し訳ない気分になったが、今はそれを気にしている場合ではない。
一番肝心な次の言葉が言い出せない。
タマキは何も言わずじっと言葉を待ってくれているが沈黙が重い。

「俺が好きなのはタマキ、お前なんだ・・・」
「・・・・・・え?」

勇気を振り絞って出した言葉は掠れていて情けない。
タマキはといえば驚いた表情でじっと固まってしまっている。
やっぱり男に告白されるなんて、普通に考えたら気持ち悪いよな。
忘れてくれと口を開き掛けたとき、タマキが俯いて何かを言った。

「・・・ばいいと思ってたのに」
「え?」
「カゲミツがフラれればいいと思ってたのに!」

言い直した言葉にカゲミツが目を丸くした。
応援してくれていたはずなのに一体なぜ?
カゲミツが意味も分からずに瞬きを繰り返していると強い力で腕を捕まれた。

「今の、やっぱり嘘とか言わないよな?!」
「言う訳ねぇだろ!」

タマキの言いたいことがさっぱり分からないカゲミツがむっとすると胸に鈍い衝撃が走った。
驚いて目線を下に落とすとタマキが胸の中にいた。
この現状にカゲミツの思考が追いつかない。

「タ、タマキ・・・?」
「俺も、カゲミツが好きだ」
「え・・・・・・?」

タマキがぽつりとこぼした言葉にカゲミツが耳を疑った。
タマキが俺を好き・・・?
信じられなくて顔を見たら上目遣いのタマキを目と合った。
顔がほんのり赤く染まっているのは気のせいではないだろう。

「・・・マジで?」
「カゲミツがフラれたら俺にもまだチャンスがあるかなって思ってた。だから電話が掛かってきて、実は少し嬉しかったんだ」

タマキは顔を胸に押し付けたままぽつりぽつりと話す。
まるで夢みたいだ。
どきどきと早鐘を打つ心臓の音が聞こえてしまうんじゃないだろうか。
胸元あたりをぎゅっと握り締める手にカゲミツは自分の手を重ねた。

「じゃあ俺達は両思いだったってことか?」

その言葉にタマキが顔を上げた。
耳まで真っ赤にして可愛いらしいことこの上ない。
そんなことを思う自分の顔もきっとタマキのことを言えないくらい真っ赤だろうけど。

「夢みたい」

そう笑ってぽろりと涙を落としたタマキにカゲミツは優しく唇を重ねた。

失恋覚悟の大告白
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