最悪の結果に終わった中間テストから一ヶ月半が経った。
予想通りどの教科も散々な結果でキヨタカがため息をつきながらニヤリと笑ったのも記憶に新しい。
あれから気持ちを切り替えて国語科準備室に通いながら家で勉強もした。
その結果を見せる機会がようやく訪れたのだ。

それは期末テスト前最後の部活動のことだった。
いつものように定位置となったパイプ椅子に座って教科書を開いていた。
キヨタカは机に向かって読書をしている。
下校時刻まであと5分と迫ったとき、ぱたんと音を立ててタマキが教科書を閉じた。

「先生?」
「ん?なんだ?」

飲みかけたカップを置いてタマキの方を向いた。
ふーっと息を吐き出してから意を決した。

「中間テストのとき言ってたこと、まだ覚えてますか?」
「なんのことだ?」

わからんなと白々しく笑う姿は絶対にわかっている。
腕を組んで壁にもたれたキヨタカの顔をじっと見つめる。
大人の余裕なのかキヨタカは動じることなく微笑んでいるのだけど。

「俺がテストでいい点数を取れたらデートに連れてってくれるって話です」
「そういえばそんなことも話したかな」
「はぐらかさないで下さい!」

タマキが語気を強めるとやれやれと眼鏡を押し上げた。

「国語だけじゃなくて全教科だぞ」
「もちろんです」
「俺とのデートはそう安くないぞ?」
「全教科85点以上、・・・これでどうですか?」

しばらく考えるように顎に手を当てて、ゆっくり頷いた。

「わかった、ただ一教科でも落とすと約束はなしだぞ」

一教科くらい、言いかけて口をつぐんだ。
妥協したくはなかった。

「わかりました」
「期待しているぞ」

大きな手がわしゃわしゃと頭を撫でた。
はいと答えたものの、正直全教科85点以上はなかなか高いハードルだ。

「先生、おまじない」
「・・・仕方ないな」

触れるだけのキスを交わしてタマキは部屋を出た。
絶対デートするんだ、そう心に決めて。


あれから三週間が経った。
テストが終わってもタマキは国語科準備室に一度も行かなかった。
全教科のテストが返ってくるまでは、そう思っていた。
今日、ようやく全てのテストの結果が返ってきた。
授業を終えたタマキは早足で国語科準備室に向かった。

「失礼します」
「久し振りだな」

座って本を読んでいたキヨタカが顔を上げた。
ずんずんと歩いてキヨタカの前に立った。

「先生、約束は覚えてますか?」
「あぁ」

キヨタカの言葉を確認してからタマキはかばんの中からファイルを取り出し、手渡した。

「確認して下さい」

黙って頷いたキヨタカが答案用紙の束を取り出した。
一枚一枚、確認するようにじっくりと見ている。

「よく頑張ったな」

全て見終わって微笑んだキヨタカにギュッと抱き着いた。

「ずっと先生とデートしたかった・・・」
「どこに行くか考えないとな」

大きな手がタマキの黒髪を優しく撫でる。
その感触が気持ち良くてタマキはゆっくりと目を閉じた。

リベンジマッチ!
(これが愛の力ってやつですか?)
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