授業が終われば国語科準備室に向かい、最初はあんなに緊張したノックももう慣れたものだ。
失礼しますと表面上は挨拶をして部屋に入る。
後ろ手にドアを閉めるのは柔らかい笑顔に早く会いたいから。
完全に閉めた感触を手で確認してから座るキヨタカの首に後ろから腕を伸ばした。

「そういえばタマキ、明日からここは立入禁止だ」
「え・・・どうしてですか?」
「テスト一週間前だからな」

何ともないように言われてタマキがあぁとうなだれた。
テスト一週間前になると原則的に職員室の立ち入りが禁止になり部活動も休みとなる。
今まではあまり関係なかったから忘れていたが、まさかこうなるとは思っていなかった。

「じゃあテスト終わるまではこうやって話が出来ないんですか?」
「まぁ・・・そうなるな」

仕方ないだろと窘めるキヨタカを見つめる。
毎日嫌でも顔を合わせるのに二週間近く話も出来ないなんて。

「休みの日は」
「会う訳にはいかないだろ?」

学校で会うよりもっとまずいだろうと言うキヨタカにタマキは黙り込んだ。
やれやれと頭を撫でるキヨタカはちっとも寂しくなんてなさそうに見えた。

「せめて電話かメールだけでも」
「学生の本業は勉強だ」

テストに集中しなさいと言われて顔を俯けた。
自分だけが夢中でキヨタカはそれに付き合ってくれているだけなんじゃないかと不安も沸き上がってくる。

「じゃあ俺、今日は帰ります」

キヨタカが後ろで何か言っていたが、聞くことなく部屋を出た。

家で勉強していても浮かぶのはキヨタカの顔ばかりで嫌になる。
沸き上がった不安はそう簡単に取り除くことは出来ない。
それどころかますます大きくなるばかりだ。
そういえば好きだって言われたことあったっけ?
そこまで考えて、手に持っていたシャーペンを机に投げた。

そんなことで今回のテストは転校してきて最悪の出来となってしまった。
結果なんか見なくたって容易に想像がつく。
カナエやアラタの心配する顔に曖昧に笑ってごまかした。
最終日、全てのテストが終わった後タマキは国語科準備室に向かった。

「失礼します」
「タマキか」

片手にコップを持ったまま振り返ったキヨタカの胸に脇目も振らず飛び込んだ。

「俺は先生が好きです、・・・先生は」

どうなんですか?
その一言が言えずタマキが口ごもった。
胸に頭を預けて抱き着いた腕にぎゅっと力を込める。

「そんなことを考えていたのか」

優しい声色だがそれでは答えになっていない。
キヨタカの顔を見上げると机にカップを置く音が聞こえた。

「好きでもない生徒と学校でこんなことするか?」

リスクがあり過ぎだろと笑った顔にどきりとしてしまった。
しかしここで満足する訳にはいかない。
おかげで勉強が全く手につかなかったのだから。
タマキが黙ったままでいると困ったように笑うキヨタカが目に入った。

「敵わないな」

そう言ったと同時に後頭部を固定されて腰にも腕が回された。

「タマキ、好きだ」

耳元で囁かれた今まで聞いたどんな言葉より甘くてタマキは顔が真っ赤になるのがわかった。
嬉しくて、涙が出そうだ。

「だから今回こんなに成績が悪いのか」
「独りよがりかもしれないと思うと勉強なんて出来ませんでした」
「テスト前に俺が言ってたこと聞いてなかったのか?」

キヨタカの言葉にタマキが顔を上げた。
全く、と言いたげな表情をじっと見つめる。

「いい成績だったらどこかへ連れてってやろうと思ったのに」
「・・・・・そんなこと言ってたんですか!」
「せっかくデート出来るかと思ったのに残念だ」

デートという言葉に胸が高鳴ったが全てが後の祭りだ。
次回頑張りなさいという言葉にタマキが渋々頷く。
だがこれで引き下がるのも何だか嫌だった。

「これから勉強頑張るために、」

そこまで言って目を閉じた。
誰に教わったんだかと落ちてきた唇にタマキは満足げに笑って、リベンジを誓ったのだった。

テストなんて大嫌い!
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