タマキが文芸部に入って一ヶ月が経った。 毎日のように国語科準備室に行っては話をしたり本を読んだり。 たまにはこっそりキスを交わしたりと幸せな生活を送っていた。 だがしかし、タマキにはひとつだけ問題があった。 休憩時間が終わり、キヨタカが教室内に入ってくる。 礼が終わり着席するとこちらを見ていたキヨタカと目が合った。 瞬間、胸がどきりと高鳴ってしまう。 「前の授業の続きからしようか」 少し低くて大好きな声が教科書のページ数を告げる。 ぱらぱらと教科書をめくってどきどきを押し隠した。 「じゃあカナエ、これを読んでくれ」 有名な小説をカナエが朗読している。 タマキも文字を追っているとキヨタカの止める声が聞こえた。 「じゃあこの主人公の気持ちをみんなで考えてみよう」 チョークを取り出して黒板に向かった。 綺麗な長い指から書かれる国語教師らしく美しい文字に見とれてしまう。 ノートに書き写すことも忘れて、ぼんやりとしてしまう。 「タマキ君、書かないの?」 「・・・え、あぁ、ぼーっとしてた」 隣の席のカナエに声を掛けられて我に返った。 慌てて黒板に書かれた文字を自分のノートに写して行く。 タマキが自分の気持ちに気付いてから、こうしてキヨタカに心奪われることが増えてしまったのだ。 二人きりのときならまだしも、授業中もホームルームもついぼーっとしてしまうことが増えた。 これが最近タマキの抱えている問題なのだ。 「最近ぼーっとしてることが多いけど大丈夫?」 「あぁ、平気だ」 「ならいいんだけど」 心配そうなカナエに笑ってごまかした。 先生に見とれてましたとも言う訳にはいかない。 数日後、タマキがいつものように国語科準備室に向かっていた。 失礼しますと部屋の中に入ってキヨタカが用意してくれた定位置に座った。 「タマキ、最近国語の成績が落ちてるんじゃないか?」 カップに口をつけながらキヨタカが意地悪く笑う。 机に手をやって一枚の紙をタマキに見せた。 それはこの間行われた小テストの答案用紙でタマキが顔を俯けた。 「最近集中力が欠けてるんじゃないのか?」 国語は得意だろ?と付け加えられた言葉にタマキは何も言い返せない。 黙っているとキヨタカがわしゃわしゃと髪を撫でた。 「やれば出来るんだから、頑張りなさい」 「・・・はい」 もっと勉強に集中しなきゃ、タマキはそう思って頬をぺちぺちと叩いた。 得意教科 (それは全部、先生のせい!) |