「好きだって言ったら?」

午前0時を回ったバンプアップのカウンター。
隣にはいつも頼れる隊長のキヨタカが見たことない挑発的な目でタマキを見ていた。
カランと音を立てたブランデーを飲み干す姿に大人の男の色気を感じたのは、きっと気のせいだと信じたい。
驚きよりも先に高鳴った胸も全部アルコールのせいだ、きっと。

両手でグラスを持ったまま固まってしまったタマキの肩が揺すられた。

「どうした?」
「隊長、冗談ですよね?」
「そうだな、お前で遊んでるだけだ」

まさかそんなリアクションされると思ってなかったとキヨタカは楽しそうに笑う。
大きな手がぽんほんと頭を叩く。
子供扱いされてるみたいでむーっとするとキヨタカが笑うのをやめた。
徐に発した言葉は聞いたこともない低い声で背中がぶるりと震えた。

「期待したのか?」
「違い、ます・・・」

唇を噛んで顔を俯かせる。
絞り出した声はキヨタカの言葉を肯定するように揺れていて恥ずかしくなる。
そんなことある訳ない。
憧れはあるけどそれ以上ではない。
本当に期待してなかった?なんて考えてしまう自分に首を振った。
これは一時的な感情で寝て起きたらすっかり忘れているはずだ。
そう思い込んで残っていたグラスの中身を一気に飲み干した。

「隊長、そろそろ帰りま、」
「ダメ、忘れさせないから」

グラスを置いてキヨタカの顔を見ると綺麗に笑って手を重ねられた。
途端に飲み込んだはずの感情がまたひょっこりと顔を出す。
からかわれているだけだと頭で理解しているのに顔が熱くなってしまう。

「さぁ、もう夜も遅いし帰ろうか」

さらりと二人分のお会計を済ませてキヨタカが立ち上がった。
タマキも立ち上がり、キヨタカの後に続いた。
いつもありがとうございますとぺこりと頭を下げる。

「今度は俺が出します」
「また俺と飲んでくれるのか??」
「はい、もちろんです」

だから今度はというタマキの顔をじっと見つめる。
恥ずかしそうに外した目線を追い掛けて顎を掴んだ。
戸惑うタマキの唇にちゅっと音を立てて口付けた。
かぁーっと染まる頬を見て、キヨタカが満足げに笑う。

「俺は悪い男だよ」

でも悪い男も刺激があっていいだろう?
それだけ告げてキヨタカは背中を向けて歩き始めた。
その場に呆然と立ち尽くしていたタマキはふと我に返って、唇に触れた。

「意識、しちゃいますよ・・・」

悪い男だと笑った顔を思い出して鼓動が早くなるのを感じた。
もうどんな言い訳も通用しないところまで来てしまっている。
小さく呟かれた言葉は夜の風に乗って消えた。

悪い男

by確かに恋だった様(翻弄する彼のセリフ)
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