バンプアップで少し飲んで、何となく開いたドアの向こうに彼はいた。
正確に言うと気持ち良さそうに眠っているのだけど。
すぅすぅと寝息をたてている彼の頬にそっと手を添える。
ふるりと震えた睫毛が愛しくて、胸が痛くなった。
自分が残してしまった頭の傷跡に触れても彼は起きる様子はない。
傷付けてごめんね。
許してくれてありがとう。
それから、・・・すき、だよ。
とめどなく溢れてくる思いを込めて、その傷跡に唇を寄せた。
この気持ちを伝わることもなければ叶うこともないことをわかっている。
ならば、せめて幸せを願わせて欲しい。
近くにあったブランケットを体に掛けてもう一度サラサラとした金髪に指を通した。
風邪ひかないようにね、と起こさないように小さく囁いて。
タマキと呼ぶ小さな寝言は聞かなかったことにした。


かつての恋敵に思いを寄せるようになったのはいつからだろうか。
記憶をなぞってもその答えは出ない。
気付いたら目で追っていて、一挙一動が気になって、家にいるときも何してるのかなと考えてしまう。
昏睡状態に陥れ、その間に思いの人を奪った自分にそんなこと思う権利なんてないけれど。
タマキを見つめてこっそりため息をつくカゲミツを見て心が苦しくなる。
告白はしたらしいけれど、まだ返事はもらっていないらしく。
幸せに笑っていて欲しいという願いはしばらく叶いそうもないようだ。
ぼんやりと頬杖をついた顔を見ていたくなくて声を掛けた。

「カゲミツ君、今度の任務なんだけどね」
「ん・・・あぁ、これな・・・」

いつもはしっかりしているカゲミツらしくなく、ぼーっと手渡した資料を眺めている。
資料を一緒に見るふりをしてちらりと横顔を見た。
最近特に忙しくもないはずなのに消えないクマ。
頬は少しこけてしまった気がしる。
そしてこんなにまじまじと見ているのにカゲミツは気付く様子もない。
普段なら何してるんだと怒りそうなのに。

「カゲミツ君・・・体調悪いの?」
「別に。いつもと一緒だ」
「でもさっきからぼーっとしてる」

心配になり顔を覗き込むと顔を逸らされ少し傷付いた。
幸せにしてあげることは出来ないし望まれていないだろうけど、辛いとき力になりたいと思うことも出来ないのだろうか。

「カゲミツ君、ちょっと来て」

手首を掴んで立ち上がらせて、そのまま屋上まで連れ出した。
想像以上に華奢な手首に顔が歪むのがわかった。
屋上に着いて逃げないようにとドアの前に立つ。
カゲミツは不機嫌な顔をしているけど仕方ない。

「何なんだよ」
「最近ちゃんと寝てる?ご飯食べてる?」
「なんでお前にそんなこと言われなきゃなんねーんだよ」

帰る、だけ言って無理矢理進もうとするカゲミツを腕の中に閉じ込めた。
やってしまったと思っても後の祭りだ。
腕の中のカゲミツは何が起こったのか理解出来ていないようで、ばちぱちと瞬きを繰り返している。
突然こんなことをしてしまった言い訳を考えなければと思うのに頭がうまく働かない。
適当な嘘でごまかそうかと思ったけれど、もう騙すことはしたくなかった。
伝えるつもりなんてなかったけれど、こうなってしまった以上覚悟を決めた。

「カゲミツ君の苦しそうな顔、見たくないんだ」
「何、言ってたんだよ・・・」

ふざけんなと小さく呟かれた言葉は恐らく本心だろう。
カゲミツの拳がわなわなと震えている。
一番傷付けた奴が何言ってるんだって自分でも思っている。

「カゲミツ君にはこれからずっと笑っていて欲しいんだ」
「だからお前、ッ・・・」

今にも泣き出しそうな顔で睨んでくるカゲミツに、言いたくても言えない言葉を伝えるように唇を塞いだ。

それはすき、だから

thank you 10000hits!企画
あきお様(カナ→カゲ→タマ、複雑で葛藤のある関係)
リクエストありがとうございました
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