「タマキ、おかえり!」

今日は用事がありカゲミツより帰りが遅くなってしまった。
ただいまと言いながら靴を脱ぐと、嬉しそうな声で名前を呼ぶカゲミツが廊下の向こうから姿を見せた。
喜びをいっぱいに表すカゲミツはまるでワンワンとご主人様の帰りに尻尾を振るわんこみたいだ。
リビングに入り改めてただいまと告げるとカゲミツが幸せそうに笑う。

「もうすぐ飯が出来るから」

座って待っててとカゲミツがイスをひいてエスコートしてくれた。
タマキが席に着くと冷蔵庫から出したばかりの冷えたビールが出て来る。

「歩いて帰って来ると暑かっただろ?」

コップも冷やしておいたからとカゲミツは微笑んでキッチンに戻った。
机の上には茹でた枝豆が置いてあって目を瞬かせる。
普段は一緒に帰宅して一緒にキッチンに立つからこんなことはほとんどない。
自分のためを思ってこんなにもしてくれるカゲミツがとても愛しい。
両手に料理を持って運んでくるカゲミツを呼び止める。

「カゲミツ、ちょっといいか?」
「お、なん、・・・タ、タマキ!?」

料理を持つ手に自分の手の平を軽く重ねて少し背伸びをしてカゲミツの頬に口付ける。
恋人同士だというのにこれだけで顔を真っ赤にしてパニックになるカゲミツにクスクスと笑ってしまう。
いいことをしたら褒めてあげるのは大事なことだ。
なんとか料理を机に置いたカゲミツにタマキがニッコリと微笑む。

「カゲミツ、ありがとう」
「タマキが喜んでくれるならやり甲斐あるよ」

照れて頬をかくカゲミツに再度ありがとうと伝える。
へにゃりと笑ったカゲミツにパタパタと揺れる尻尾が見えた。

夕食の片付けはやるとタマキが申し出たがカゲミツが受け入れなかった。
疲れているだろうと一人でやろうとしたので、いつも通り二人で分担して片付ける。
タマキが立てていた予想より早く終わり、二人で並んでソファーに座った。
バラエティー番組をを見て二人で笑う。
何気ないことだけどこんな日常を幸せだと呼ぶんだろうなとタマキはぼんやりと思う。
少し触れる程度だった指先をカゲミツが突然絡めてきた。
なんだと思って横を向くとカゲミツが遠慮がちに口を開いた。

「タマキ、その、・・・シたいんだけど・・・」

その間も指をもぞもぞと動かしている。
今日のことはありがたかったし、嬉しかった。
しかし明日も仕事だしそれとこれとは別問題だ。

「明日も仕事だろ?」
「ちゃんと手加減するから」
「でもダメだ」

絡めた手をやんわりと離すとあからさまにしゅんとし、ぺたんと垂れた耳が見えた気がした。

「カゲミツ」
「なんだよ」
「こっち向けって」

いじけてしまったカゲミツをこちらに向かせる。
軽く肩に手を置いてちゅっと触れるだけのキスをする。

「今日はダメだけど次の休みに・・・、な?」

タマキがはにかんで言うとカゲミツの表情が一変して明るくなる。

「楽しみだな、次の休み」
「・・・バカ」

言葉ではついそう言ってしまったが、実は少し楽しみにしている自分にタマキが気付いた。
俺もバカだなと呟いてカゲミツの肩に頭を乗せた。

わんこの上手な付き合い方
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