「「げっ!」」
「先生に向かってその反応はないんじゃない?」

今にも逃げ出しそうなカゲミツとオミの腕を掴まえて先生だと名乗る男は笑う。
しかしタマキはその男を見たことがなかった。

「カゲミツ、」

誰だとも聞けないので目で訴える。

「あぁ、お前がキヨタカ先生のクラスの転校生か」

二人の手を掴んだままじっくりと顔を覗き込まれた。

「噂通りだな」

一体何が、というか誰なんだ?
疑問が顔に出てしまっていたらしい、男はプッと吹き出した。

「悪い悪い、俺は家庭科のトキオだ」

よろしくなとニコリ微笑まれる。
本当は手を差し出したいけどコイツらが逃げるからと掴んだ腕を持ち上げる。

「で、話は戻るけど部活探してるんだよな?」
「・・・はい」

先生だとは言え、いきなり馴れ馴れしい態度で少しひいてしまう。

「じゃあ今から家庭科部に案内してやるよ」
「え?」

返事をする前に連れていかれる二人を置いていけずにタマキもついて行く。
嫌だーと叫ぶカゲミツと何も言わないが渋い顔をするオミ。
一体何があるんだとタマキは不安になりながら二人を追った。

「ここが家庭科部の活動場所でーす」

連れて来られた場所は名の通り家庭科室でタマキは安心する。
上履きからスリッパにはきかえて中に入ると、席に座るようにと言われた。

「まず家庭科部の活動について説明する」
「センセー、帰ってもいいですか?」
「却下」

トキオが話し始めた瞬間カゲミツが手を上げたがあえなく撃沈する。
あの自由なカゲミツが勝手に帰れないところを見ると、何かあるのかもしれない。

「先生、俺家で勉強しないと」
「じゃあオミがいない間にカゲミツにいたずらしちゃうぞ」
「なんで俺なんだよ!」

次にオミが尤もらしいことを言ったがトキオの一言で席に戻った。
タマキは理解出来ずに顔を傾げるがなんでもないとオミが手を振った。
静かになった室内を見渡して、トキオがにっこりと笑った。

「家庭科部な主な活動は料理を作ることだ」
「ここ男子校ですよ?」
「これからの時代、男が料理出来なくてどうするんだ」

内容を聞いたタマキが驚きの声を上げるがトキオは全く気にしない。

「それに男の料理は意外性があって効くぞ」

ほら、入りたくなってきただろ?と言う言葉に心が揺れる。
自分が作った料理で相手が喜んでくれたら素敵なことだ。
カゲミツがタマキを、オミがカゲミツを、タマキはキヨタカを想像する。
なんでキヨタカ先生なんだろうと一瞬不思議に思ったが、トキオの言葉に思考を遮られた。

「とりあえず体験入部だ、何か作ろう」

そう言って準備室に入ってごそごそと食料を漁るトキオ。
最初は嫌そうだったカゲミツとオミも話を聞いて気が変わったらしい。
逃げるどころか何を作るんだと準備室を覗き込んでいる。
あったあったと材料を持って家庭科室に帰ってきた。
手にはバナナとホットケーキミックスだけで三人がぱちぱちと目を瞬かせる。

「簡単なスコーンを作ろう」

タマキがバナナを切りカゲミツがバターを溶かしオミがホットケーキミックスを量る。

「タマキ、じゃあそれをビニール袋に入れて揉んでくれ」

その間に天板にオーブンシートを敷いておく。
よく混ざったビニール袋の端を切り先ほど用意した天板に丸く均等に絞り出す。

「あとはオーブンで焼いて出来上がりだ」

トキオはそう言ってオーブンに入れた。
想像以上に簡単な手順で出来て三人は驚きの声を上げる。
これなら出来るかも、とすら思ってしまう。

「家庭科部に入ったらもっと本格的な料理もやれるぞ」

というトキオの言葉に三人の心が揺れる。
25分ほどで焼き上がったスコーンをオーブンから出すといい香りが部屋の中に広がった。
試食してみたら自分達で作ったとは思えない出来でびっくりしてしまう。
美味しくてついつい何度も手が伸びるのをトキオが遮った。

「はい、これで終了」

そう言って残りを三等分に分けて袋に入れてくれた。

「良かったら家庭科部に入ってね」
「ありがとうございました」

じゃあねと手を振るトキオに別れを告げて家庭科室を後にする。
文芸部に行こうと思っていたが、時間がなくなってしまった。
見学は今度でもいいけれど、スコーンをどうしてもキヨタカに渡したかった。

「ごめん、俺用事思い出したから」

帰ろうとしているカゲミツとオミに声を掛けて来た道を戻る。
カゲミツが残念そうな声を出したが構っていられない。
下校時刻が迫っている。早く届けなければ。
スコーンの入った袋を握り締めてタマキは職員室へと走り始めた。

体験入部-家庭科部編
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