「タマキは部活には入らないのか?」
「えっ?」

それは担任のキヨタカと話しているときのことだった。
突然の質問にタマキは思わず黙ってしまう。
前の学校では帰宅部だったため、今まで一度も考えたことがなかったのだ。

「今まで考えたことがありませんでした」
「そうか。高校のうちだけだからやっておいた方がいいぞ」

それに何かやっていた方が大学入試のとき推薦しやすいしなとキヨタカが加える。
それもそうだとタマキは頷いた。
なぜかキヨタカの言うことは素直に聞けてしまう。

「部活に入るなら文芸部も考えておいてくれ」

部員が少なくて廃部になりそうなんだとキヨタカは苦笑して立ち上がった。

「まぁいろいろ見てみるといい」

そう告げて、キヨタカは去ってしまった。
文芸部に入るべきか悩んでやめる。
キヨタカが言う通り、まずはいろんな部活を見てみなければ。
まずは写真部に所属しているアラタとカナエに話を聞こうと、タマキも立ち上がった。

「アラタ!カナエ!聞きたいことがあるんだ」
「なぁーに?タマキちゃん」
「どうしたの?タマキ君」

部活に入りたいが悩んでいるとタマキが話すと、アラタが目を輝かせた。

「タマキちゃん、写真部に入ろうよ」
「いろんな部活見てから決めるよ」
「じゃあ今日部活見学においでよ」

わくわくとした目でアラタがタマキの腕に絡み付く。
カナエを見ると歓迎するよと微笑まれ、その日のうちに写真部の見学に行くことになった。

「なんでタマキちゃんだけじゃないの?」
「アラタ、入部希望者は多い方がいいでしょ?」

放課後、アラタがノックされたドアを勢いよく開くとタマキと一年生のカゲミツとオミが立っていた。
不満を隠しもしないアラタにカナエが苦笑する。
ごめんね、なんて言っているが完全にタマキしか見ていない。

「タマキちゃん、こっちだよ」

腕を引っ張り案内するアラタはまるで子供のようにはしゃいでいる。
残されたカゲミツとオミは仕方なくカナエについていく。
せっかくタマキに誘われたのにこれでは意味がないとカゲミツは思う。

「これが前の写真展の様子」
「結構本格的なんだな」

へぇと感心しているタマキの後ろをカゲミツとオミが歩く。
アラタはタマキにしか興味がないらしく、二人の存在は完全に無視だ。

「俺達歓迎されてないみたいだけど」
「じゃあお前は帰れ」

俺も歓迎してねぇと言うカゲミツにオミはわざとらしくため息をつく。
前より口を聞いてくれるようになったが態度は相変わらずだ。
そんな二人の様子を見てカナエは笑っている。

「写真部いいでしょ?先輩も優しいし楽しいよ!」

一通り説明を終えたアラタが一生懸命勧誘している。
タマキは曖昧に笑っていたが、入部届けを差し出されてさすがに困った。

「他のとこを見てから決めるよ」
「写真部は嫌?」

アラタがしゅんとした顔で見上げてくるが、タマキはキヨタカの一言が気になっていた。
写真部が嫌な訳ではないが、どうしても文芸部が気になる。

「嫌じゃないけど他にも気になるところがあるんだ」

アラタの髪を撫でて立ち上がった。
やっぱり文芸部の見学にも行こう。
アラタとカナエにお礼を言って部室を出た。

「他に気になる部活ってなんだ?」

少し歩いたところでカゲミツが声を掛けた。
答えようかどうか、迷っていると別の方向から声が聞こえて立ち止まる。

「何、お前達部活に入るつもり?」

声の先にはニンマリと笑うコバルトブルーの目をした男が立っていた。

体験入部-写真部編
(入部してくれたら、ずっと一緒にいられるのに)
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