「あっつい・・・」

今日の最高気温は36度だとテレビの中の暑そうなスーツを着込んだおじさんが言っていた。
暑いと言っても暑さが増すだけだと分かっているけど、言わずにはいられない。
ぱたぱたと目の前の資料で扇ぐも生温い風がくるだけだ。
はぁーっと大きく息を吐き出してデスクに倒れこんだとき、背後から名前を呼ばれた。

「カゲミツ、今日一緒に飲みに行かないか?」

それは暑さも吹き飛ぶような誘いで、一瞬カゲミツの中の時間が止まった。
タマキが俺を誘ってくれた。タマキが、俺を・・・俺を!?
がばっと飛び起きて振り返ると勢いに驚いたタマキと目が合った。

「嫌ならいいんだけど・・・」
「嫌じゃない、全然嫌じゃない!」

ぶんぶんと首を振るカゲミツにタマキが苦笑する。
こうして、仕事終わりに二人で飲みに行くことが決まったのだ。

「やっぱり夏はビアガーデンだよなぁ」

とあるデパートの屋上、手にはビールジョッキを持ちながらタマキが美味しそうに喉を鳴らしている。
周りにはスーツを着たおじさんや若者のグループなど様々な人が同じように楽しんでいる。
カゲミツも一緒にビールを飲みながらつまみに手を伸ばす。
頬を撫でる夜風が涼しくて気持ちいい。
目の前には大好きなタマキの笑顔。
考えるまでもなく幸せだ。

「暑い日はビールが美味いな」

そう言ってジョッキを一気に飲み干すタマキに微笑んで答える。
いつもよりペースが早い気がするが、この開放感では仕方ないだろう。
枝豆を口に入れながらそんなことを考えていると、タマキがぐたりと突っ伏した。

「タマキ!?」
「なにー?」

へにゃりと笑った顔が可愛い、とか言ってる場合じゃなくて。
そんなに強くないくせして一気に飲んだせいか、タマキは完全に酔いが回っているようだった。
いつもより甘えた口調で話し掛けられ、どきどきしてしまう。

「タマキ、これ以上飲んだらダメだって」
「いいじゃん、カゲミツも飲も?」

上目遣いで笑われて、いつもなら嬉しいはずのその顔も今はそれどころではない。
無理矢理タマキの手からジョッキを奪い取って中身を飲み干す。
はぁとため息を吐き出したらタマキが店員を呼ぶ声が聞こえて慌てて止める。

「タマキ、もう帰るぞ!」
「やだ、全然飲んでないだろ」

やだやだと騒ぐタマキを引き連れてビアガーデンを出る。
まだ飲み足らないと騒ぐタマキは完全にご機嫌ナナメだ。

「また飲みに行こうな」
「やだ、今飲みたい」

いくら説得しようとしてもタマキは聞く耳を持たない。
困ったと頭を抱えていると、タマキがあっと声を上げた。

「じゃあワゴン車で飲もう」

それならいくら酔っても大丈夫だろと言われ仕方なく頷く。
このまま機嫌が悪いよりかはマシだ。
どうせ今日もヒカルはワゴン車にいない。
酔っているといえタマキと二人っきりなんておいしいじゃないか。
機嫌を良くし腕に絡み付いてくるタマキを眺めながら、カゲミツはバンプアップへと歩き始めた。
途中コンビニに寄って缶ビールを買い込む。
どんどんとカゴに入れていくタマキにぎょっとするが何も言えない。
二人で飲むには多過ぎる量を抱え、ワゴン車に戻った。

「じゃあもう一回、かんぱーい」

ぷはーっと美味しそうに飲むタマキにやんわりと微笑む。
狭いワゴン車に酔ったタマキと二人っきり。
おいしい状況ではあるが、同時にかなり辛い状況でもあった。

「カゲミツー、お前も飲めよー」

そう言って自分が飲んだビール缶を近付けてくるタマキをやんわりと押し返す。
今すぐにでも切れそうな理性を必死で保っているんだから、勘弁して欲しい。
ぐっと強い力で押され押し倒されるような格好になってさすがに慌てる。

「タマキ、酔い過ぎだぞ」

しかしタマキは圧し掛かったまま何も返事をしない。
不思議に思って顔を覗き込むと、タマキはすぅすぅと寝息を立てて眠っていて思わず脱力した。

「こんな格好で寝るなよー」

タマキの手から缶ビールを取り上げて、タマキを自分から下ろそうとする。
しかしうーと唸り声を上げて嫌々と胸に顔を擦り付けられては動けない。
気持ち良さそうに自分の上で眠るタマキを見て悶々としてしまう。

「タマキー・・・」

声を掛けても起きるはずもなく、その日カゲミツは一睡も出来ぬまま朝を迎えたとか。
(こっそり頬に口付けたのは秘密の話だ)

「カゲミツ、俺なんでここにいるんだ?」
「タマキ、酒はほどほどにしような」
「?」
酒は飲んでも
(飲まれるな!・・・頼むから)
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