「ツイてねな・・・」

先程まで見えていた太陽はどこへやら。
カゲミツが昼食を食べ終えて店から出ると、ざーざーと降る雨に思わず舌打ち。
コンビニで傘で買おうかと思ったが、生憎最寄のコンビニは職場の方が近い。
どうしようかと空を見上げてみても天気が変わる訳でもなく。
今日の自分の不運さを恨めしく思うのだった。

この日、朝からカゲミツはとことんツイていなかった。
まずは目覚まし代わりの携帯のアラームが鳴らなかった。
おかげで遅刻してしまいキヨタカに怒られたのだ。
はぁと重いため息をついてパソコンをつけると、苦労して作ったはずのプログラムがどこにも見当たらない。
ワゴン車のパソコンや思い当たるところ全て探したがどこにもないのだ。
確かにこの中に入れたというフォルダはからっぽで。
ヒカルの間違って消したんじゃねぇのという言葉が重くのしかかった。
他にもインスタントコーヒーを飲もうとしたら途中でお湯がなくなったりだとか、ぼーっとしていたら机の角に指をぶつけただとか。
意気消沈、まさにそんな気分のカゲミツに更に追い討ちをかけるような出来事があった。

昼時、こういうときはタマキと話して元気になろうと考えたカゲミツ。
キヨタカが休憩を告げてタマキを誘おうとしたら、カナエに先を越された。

「タマキ君、二人でご飯食べに行かない?」

カナエが二人での部分を強調したのは気のせいだろうか。
しかしタマキは特に気にする様子もなく了承し、二人で出て行ってしまった。

「一足遅かったな」

ヒカルはそう面白そうに笑ってキヨタカと出て行ってしまった。
今日は厄日だ、そう思って一人で食事に出掛けたらこの有様だ。
待てども雨は止みそうにないし、覚悟を決めて帰るかと一歩を踏み出した時、後ろから声を掛けられた。

「カゲミツ、濡れるぞ」

聞き覚えのある声に振り向くと傘をさしたタマキが一人で立っていた。
カゲミツが目を瞬かせるとタマキが照れたように笑う。

「ちょっとコンビニに寄ったらカゲミツ見つけてさ」

一緒に入らないか?と微笑まれて全力で頷いた。

一人用の傘に大人二人で入るため、ぎゅうぎゅうと間を詰めて歩く。
普段こんなに接近することなんかないよなぁとカゲミツはぼんやり考える。
タマキの腕がずっと自分の腕に当たっていてどきどきする。

「カゲミツ、聞いてるのか?」
「あ、あぁ。悪い、聞いてる」

せっかくのタマキとの会話も上の空だ。
そのとき、ぽつりぽつりと傘を鳴らす雨音が少し弱くなっていることに気付いた。

「雨、弱くなってきたな」
「あぁ、そうだな」

それでも傘をたたむ様子のないタマキに安堵する。
もう少しこの幸せな空間にいたい。
さっきまであんなに恨めしかった雨だけど、今ではもう少し降り続いて欲しいとすら願う。

「雨、もうちょっとだけ降ってくれればいいのにな」
「え?」
「・・・なんでもない」

タマキの小さな呟きは傘を跳ねる雨音に掻き消された。
少し顔を赤らめるタマキをカゲミツは不思議に思うが何も追及しない。
また二人で他愛もない会話をしながら、バンプアップまでの道のりを歩いた。

*

「カゲミツ君も鈍感だよね」

二人がコンビニで買ってきたお菓子を食べながらアラタが笑う。
雨が窓の外を見て、ちょっとコンビニまで行ってくると慌てた様子で出て行ったタマキを思い出してヒカルも笑った。

「コンビニより自分が飯を食ってた場所が遠いってことに気付くだろ、普通」
「まぁしばらくは面白いからこのままでいいけどね」

先程までのどんよりしたオーラが見事に幸せなものに変わったカゲミツと、隣で楽しそうにお菓子を食べるタマキを見て二人はまた楽しそうに笑った。

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