なけなしの勇気を、君に!

戦いの火蓋は、今、切って落とされる!

ミーティングが終わり、帰ろうとしているタマキに声をかける。
それだけで少し、心臓がどきどきしてしまったなんて、秘密だ。

「今日飲んで帰らねぇ?」

断られたら、どうしよう!
へたれな性格が顔をのぞかせる。
そんな考えが、顔に出てしまっていたのだろうか。
タマキは笑いながら了承の返事をくれた。

二人で飲み始めて、どれくらいの時間が経っただろう。
くだらない話で盛り上がりながらも、カゲミツは緊張していた。
今日こそ、へたれな俺と決別するんだ!
あの日、心に誓った決意を思い出し、グラスを一気に飲み干した。

「カゲミツ・・・大丈夫か?」

タマキの心配そうな一言でハッとする。
緊張からか、いつもよりも随分早いペースで酒をあおっていたようだ。
タマキはさっと会計を済ませ、カゲミツを支えながら店を出る。
自分では酔っていないと思っていたのに、タマキの支えなしでは歩けない。
カゲミツはこんなはずじゃなかったのに、と自分を恨む。

「俺ってやっぱりへたれなのかな・・・」

タマキに想いを伝えるために誘ったのに、緊張して飲み過ぎてしまうなんて。
突然何言ってんだよとタマキは笑うが、カゲミツの表情は曇ったままだ。
そうやって二人で歩いてるいるうちに、カゲミツの自宅の前に着いてしまった。

「あんまり飲み過ぎるなよ」

タマキはそう言うと、カゲミツの肩にぽんと手を置いた。
それじゃあ帰るからと踵を返して歩き出そうとした。

「タマキ!」

カゲミツは無意識のうちにタマキの腕に手を伸ばしてた。
不意に手を引かれたタマキは反動でよろよろとよろめいてしまい・・・
気付けばカゲミツの腕の中にすっぽりと収まっていた。

「カゲミツ・・・」

抱き締められる格好となったタマキはカゲミツを見つめる。
息がかかりそうなほど、顔が近い。
名前を呼ばれたことでカゲミツは自分の状況を理解した。
想い焦がれたタマキが、今、自分の腕の中にいる。

これは夢か、幻か?

思考が停止しているところにもう一度名前を呼ばれて現実に戻される。

腕の中のタマキを見る。
驚いた表情をしているが、嫌がっているようには見えない。
酔った頭でも、あの日の決意が思い出される。

「タマキ・・・すきだ」

呟くように言うと同時に抱き締める腕に力をこめる。
きっと、今の自分の顔は真っ赤だから。

あぁ、なんて不恰好なんだろう!
もっとたくさんの言葉を用意していたのに!

しかし、しばらく経ってももタマキからの反応はなかった。
心配になって身体を少し離し、恐る恐る顔を覗き込んだ。

「・・・ぷぷぷっ」

目線が合った瞬間、タマキは噴出した。

「やっと言ってくれたな」

タマキは嬉しそうに笑うと、カゲミツの背中に腕を回した。



後日、ミーティングルームにカゲミツとキヨタカの二人がいた。

「ということでタマキは俺のだから手を出すなよ!」

キヨタカは俺にはヒカルがいるからなと笑った。
きょとんとした顔のカゲミツに、キヨタカはまた笑った。

「俺が本気でタマキに手を出すと思ったのか?」

思ったから、決死の思いで告白したんじゃねぇか!
しかし、それがきっかけで結ばれたのだからキヨタカには感謝しなくてはならない。

「釈然としねぇけど、ま、ありがとう」

照れくさそうに礼を言うと、キヨタカは不敵な笑みを浮かべた。

「まぁこれからは、分からないけどな」

それだけ告げるとキヨタカは部屋を出て行ってしまった。
せっかくタマキと思いが通じ合えたのに、どういうことだよ!
新たな悩みに頭を抱えるカゲミツだった。

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