それはほんの些細なことがきっかけだった。
付き合う前に自分だってよく言われていたじゃないか。
そう思っても酒に酔った頭では冷静な判断が出来ない。

「キヨタカのバカ!」

唖然とする仲間を無視して、タマキは走り去ってしまった。

今日はJ部隊全員での飲み会だった。
最近暑いし、日頃のストレスを酒でも飲んで吹き飛ばそうというキヨタカの提案だ。
飲んで食べて笑って、そんな楽しい飲み会になるはずだったのに。

「ユウトは可愛いな」

いつもの戯言だと分かっていたけど眼鏡を押し上げてくすりと笑うキヨタカに、なぜだかとても悲しくなった。
引っ張って端の方まで連れて行き、声を潜めてキヨタカを問い詰める。

「誰にでもそんなこと言わないで下さい」
「ちょっとした冗談じゃないか」
「でも嫌なんです」

やだやだといつもらしからぬ駄々をこねるタマキにキヨタカがため息をつく。
少し飲み過ぎだな、キヨタカがそう思ったときにタマキが声を上げた。
そして、冒頭の流れに戻るのだ。

「・・・タマキ?」

最初に我に返ったカゲミツがタマキの後を追おうとしたのをキヨタカが遮る。

「俺が行って来るよ」

みんな色々聞きたいという表情だったが、今はそれどころではない。
タマキを連れ戻してくる方が先決だとみんな分かっていた。

「タマキちゃん泣かしたら、隊長でも許さないよ」

ニッコリと微笑みつつも怖いことを言うアラタ達に見送られキヨタカは席を立った。
カバンはまだあるから、店の外には出ていないだろう。
そう見当をつけて店内を歩き始めた。

「こんなところにいたのか」

トイレの扉を開けると洗面台で顔を洗うタマキを見つけた。
目を赤くしているところを見るときっと泣いていたのだろう。
頭を撫でようと腕を伸ばしたら、その手を叩かれてキヨタカが目を丸くする。

「構わないで下さい」
「みんなが待っている、帰るぞ」
「嫌です!」

飲み過ぎで興奮状態なのかタマキは何を言って聞かない。
出来るだけ優しい口調で言ってもタマキの態度は変わらない。

「俺のことなんて、どうでもいいくせにっ」

突然泣き出して鬱陶しいと思ってるんじゃないですかと付け加えられた言葉に、キヨタカの中で何かがぷつりと切れた。
酒を飲んでいたのは、キヨタカだって同じだ。

「うるさい」

そう低く呟いてタマキの腕を強く掴み、いよいよ嫌われたと泣き出すタマキをトイレの個室に連れ込んだ。

「お前のことをどうでもいいなんて、思う訳ないだろ」

個室の壁に押し付けて強引に唇を押し付ける。
最初から噛み付くようなキスに思考がストップしてしまう。
何度も何度も激しく重ねられて体の力が抜けていくのが分かった。

「っはぁはぁ・・・」
「これで分かったか?」

真剣な表情で見つめられてタマキはこくりと頷く。
キヨタカに抱き付くと背中に腕が回されて安心した。

「ごめんなさい」
「分かればいいんだ」

優しく触れた唇に安心してタマキの目からまた涙が溢れた。
キヨタカはそれを指で拭って、個室の扉を開く。

「これからお前のこと、説明しないとな」

お前が名前で呼ぶからと笑うキヨタカに自分の行動を振り返って、我に返った。
興奮していて思わず名前で呼んでしまった自分を後悔するが既に遅しだ。

「これで公認の仲だな」

しかしキヨタカが嬉しそうに笑うので、タマキもどうでもよくなってしまった。
みんなが待つテーブルに辿り着くまであともう少し。
握った手はそのままでみんなが待つテーブルへと向かった。
仲直りのキス
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