「タマキ、・・・その、今から空いてないか?」
「悪い、今日は用事があるんだ」

頬をかきながら誘ってくれるカゲミツに申し訳ないと思いつつも断る。
最近オフの前になると誘ってくれるのだが、生憎予定が決まっている。
いつも断ってばかりで悪いとは思うけどこればかりは仕方ない。
急いで帰る準備をしお疲れ様ですと言ってミーティングルームを出た。
まだ時間はあるけれど、はやる気持ちが抑えられない。

チャラチャラと音を立てる真新しい鍵を手に取ってドアを開けた。
ついついクセでお邪魔しますと言い掛けて口をつぐむ。

「もうその言葉はタマキに必要ない」

キヨタカの声が思い出されてじんわりと温かいものが心に広がる。
これが幸せなんだと自覚したら顔が暑くなった。


「たまにはカゲミツと遊びに行ってもいいんだぞ」

帰宅して顔を見るなりそう言うキヨタカにむっと頬を膨らませた。
どんなに楽しみにしてたかなんて、言わないでも分かって欲しい。

「カゲミツと遊びに行って欲しいんですか?」
「お前が行きたいのなら、俺は別に構わないぞ」

なんてことない表情でキヨタカはネクタイを解いている。
その仕草にどきりとしてしまうほど好きなのに。
同じ職場で働いてるとはいえみんなに秘密の関係だ。
二人で触れ合える時間はそう多くない。
だから二人の時間は大切にしたいし大切にして欲しい。
自分はそう思っているのに、キヨタカは思ってくれていないのだろうか。

「悪い、意地悪し過ぎた」

俯いて何も言わなくなったタマキの頭を大きな手が撫でる。

「俺と過ごしたいと思ってくれてるんだろ?」

子供をあやすように頭を撫でられ、視線を合わせられれば怒る気も失せてしまう。
こくりとタマキが頷くとキヨタカが嬉しいよと笑った。

「明後日の朝までゆっくり過ごそう」

そう言って近付いてきた顔に、ゆっくりと目を閉じる。
合わさった唇を確認してからキヨタカの首に腕を回した。
夕飯はあと火を通すだけというところで止めてある。
キヨタカの言う通り明後日の朝までは二人っきりの時間だ。
食事を取るのは、後回しにてもいいだろう。
甘い重力
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