もう恋なんて、

すべての戦いが終わった。
ナイツオブラウンドは崩壊し、オミやレイ、そしてカナエがJ部隊に入隊することになった。
やっとアマネからカナエを解放出来た。
これでずっと一緒にいられる。
そう思った矢先、カナエにフラれた。
今まで囁いた愛の言葉は何だったのか、呆気に取られるタマキをよそにカナエはレイと付き合い始めた。


「ふらけんなよ〜」

呂律が回らず、グラスをカウンターにドンドンとしているタマキを見てキヨタカが苦笑する。
飲み過ぎだと注意しても、酔っ払ったタマキにたまにはいいじゃないですかと流されてしまった。
酔っ払っていないと見れない光景だな、キヨタカは内心そう思いつつくだまくタマキの背中をさする。
暫くそうしているとタマキがカウンターに顔を預けてすやすやと寝息を立て始めた。

「タマキ?」

呼び掛けても起きる気配はない。
マスターはやれやれといったように肩を竦めている。
時計を見るともう夜も遅い。
キヨタカは二人分の代金を支払いタマキの腕を自分の肩に回した。

「連れて帰りますよ」

マスターが苦笑混じりにドアを開けてくれた。


タマキが目を覚ますと、そこは見たことのない部屋だった。
曖昧な昨夜の記憶を懸命に手繰り寄せる。
カナエにフラれた腹いせにバンプアップで飲んでいた。
誰と?カゲミツ?いや違う。
トキオ?トキオなら家の鍵を持っているはずだ。
ズキズキと痛む頭でうーんと悩んでいると、目の前に水が差し出された。

「痛むか?」

呻き声を二日酔いと勘違いしたらしい。
キヨタカが優しい表情でタマキを見下ろしていた。
大きな指がさらりと黒髪に触れる。
キヨタカはいつも優しい、そこまで考えてハッとした。
そうだ、昨日はキヨタカと飲んでいたんだ!
バラバラだった記憶が形を取り戻していく。

「す、すみません!」

とりあえず謝らなければ。
飛び起きようとしたら頭に鈍い痛みを感じた。

「昨日は随分と飲んだんだ、無理するな」

起きようとするタマキをキヨタカは優しく横たえる
横になったまましゅんとするタマキの黒髪をキヨタカが掻き混ぜた。

「お前を止めれなかったのは俺だ、すまなかった」

なぜキヨタカが謝るのかと、タマキはふるふると首を振る。

「迷惑掛けてしまってすみません」
「気にすることはないさ」

キヨタカは柔らかく微笑んでタマキの体にタオルケットを掛けた。

「食事の用意が出来るまで寝ていろ」

薬をサイドテーブルに置いて、キヨタカは部屋を出て行った。
その言葉を聞いて、タマキはまた眠りに落ちた。


「いろいろとすみません」

数時間後、朝食を食べ終えたテーブルで二人は話していた。
キヨタカはやはり気にすることはないと言うのけれど。
いい香りのする紅茶に口をつけていると徐にキヨタカが口を開いた。

「カナエのことは吹っ切れそうか?」

その質問にタマキは黙ってしまう。
顔を俯かせ、どう答えればいいものかと考える。
カナエをまだ好きだけど、カナエはレイを選んだ。
共有した時間が圧倒的に違う。
カナエがレイを選ぶのも、正直分かる気がしていた。
しかし、それで吹っ切れるほどタマキの気持ちも小さくない。

「まだ、分からないです」

正直に答える。
キヨタカは静かな声でそうかと返した。

「新しい人を探そうという気はないのか?」

いっそ、誰か違う人を好きになった方が楽だとは思う。
しかし失恋の痛手はそんなにすぐには癒えない。

「まだ新しい恋を探す気には・・・」
「そうか」

キヨタカの少し残念そうな声に顔を上げる。
目が合った。黒い瞳から逃げられない。
キヨタカの口がじゃあ、とゆっくり動いた。

「恋が面倒なら、とりあえず俺に愛されてみたらいい」

え、と驚くタマキといつもの余裕ある表情で笑うキヨタカ。
立ち上がり、タマキの後ろに回り込む。

「一度俺に任せてみないか?」

低い声にタマキの胸がどきりとした。
黒い瞳が真剣な表情で見つめてくる。

「愛してるよ、タマキ」

観念するように一度小さく目を伏せて。

「お願いします」

タマキの言葉にキヨタカの口がカーブを描いた。

by確かに恋だった
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