start the start

ヒカルと親しげに話す姿、パソコンに向かう真剣な表情。
いつからだろう、気付けばいつも視線がその背を追っていた。

「タマキ」

名前を呼ぶ声に振り返ると、カゲミツがじっと見ていた。
優しい琥珀色の瞳にみつめられるとたじろいでしまう。
そんなタマキに気付かないのか、カゲミツは頬をかく。

「良かったら飯食いに行かないか?」

カゲミツからの誘いはいつも控え目だ。
いいぜと答えると、ぱぁーっと表情が明るくなった。
その顔を見ているとタマキまで嬉しくなってしまう。
早く行こうぜ、そう言って腕に触れられるとびくっとしてしまった。

外に出ると太陽の光を浴びたカゲミツの金髪はきらきらと光って見えた。
道行く女の子が通り過ぎた後に振り返ることに優越感と同時に少しの不快感。
どうした?と顔を覗きこんでくるカゲミツを見るとそんな気持ちは吹っ飛ぶんだけど。
気遣ってくれる優しい瞳に見つめられて、思わずたじろいでしまう。
なんでもない、そう言って顔を逸らした。

二人で食事をしてミーティングルームに帰る。
前回の任務の報告書を書きつつ、目立つ金髪を無意識のうちに捜す。
いつもいるはずのソファーにその姿が見当たらない。
ペンを置いてぐるりと部屋の中を見渡してもその姿が見つけられない。
そばに居ないとそわそわしてしまう。

「カゲミツどこ行ったんだ?」

キヨタカと二人で話していたヒカルに思わず質問してしまった。
ぽかんとした表情を浮かべた二人はすぐにニヤリと口を歪めた。

「カゲミツならワゴン車で仕事してるぜ」

その言葉を聞いてホッと一安心。自分の席に戻ろうとしたらところにキヨタカの声が響いた。

「休憩にしようか」

カゲミツのところに行って来いというようにウィンクを見せて。

キヨタカの優しさを受け取り、駆け足でワゴン車へ向かう。
コンコン、ドアをノックしても一向に開く様子はない。
思い切ってワゴン車を開けてみると、パソコンを触りながら眠るカゲミツが目に入った。

「お邪魔します」

控え目に断ってワゴン車の中に入る。
すやすやと気持ち良さそうに眠っているのを起こすのは申し訳ない。
眠るカゲミツに手を伸ばしてきらきらした金髪に触れる。
カゲミツは嫌いだと言っていたが、タマキはとても綺麗だと思っていた。
ずっと見ていると、なんだかそわそわと落ち着かない気持ちになってきた。
このまま寝顔を見ていたいような、早く笑顔を見せて欲しいような。
心の底から何かが湧き上がる感覚があるが、それが何だかは分からない。
なぜ目で追ってしまうのか、なぜこんなにもどきどきするのか。
タマキが自分の気持ちに気付くまで、あともうすこし。

by転寝Lamp様(無自覚な恋の五つのしぐさ)
back
- ナノ -