五億回の瞬き

「ねぇ、知ってる?」

オミがそう問い掛けてきたのは二人並んで屋上から星を眺めているときだった。

「何を?」
「人は死ぬまでに、五億回の瞬きをするらしいよ」

突然何の話だと開きかけた口にオミの人差し指が触れる。
黙って聞いて、真っ直ぐな目がそう訴える。

「その五億回の中で、一番多く見るのがカゲミツだったらいいなと思うんだ」

真剣な表情で言われて、カゲミツは顔が赤らむのが分かった。
お前恥ずかしいんだよ、呟いてそっぽを向いたのは嬉しかったからだ。
それを分かっているオミが嬉しそうに笑って腕を腰に巻きつけてきた。

「嬉しい?」
「・・・嬉しくない」
「君は本当に素直じゃないね」

オミはそう言って自分より少しだけ低い位置にある首筋にキスを落とす。
月明かりに照らされて、ほんのり赤くなった白い肌に思わず苦笑い。

「たまには素直になってよ」

カゲミツの肩に顔を乗せて、回した腕に力を込めて、耳元で低く囁く。
びくりと肩が揺れたのは、カゲミツがこの声が好きだからだ。
それを知っていて、オミが促すよう名前を呼ぶ。

「カゲミツ」
「・・・・・・もだ」

カゲミツが何か言ったが小さくて聞こえない。
オミが伺うように顔を覗き込むと、むっとした表情でカゲミツが言った。

「俺もだって言ったんだよ」

ぶっきらぼうに言い放たれた言葉はオミの予想とは全く違っていて。
思わず目を瞬かせると、カゲミツは恥ずかしそうに目を反らした。
素直になってとは言ったけれど、返って来たものは想像以上だ。
思わず顔がだらしなくなる。
気持ち悪いという照れ隠しの言葉すら愛しく感じる。

「カゲミツ、好きだよ」
「うるせー」

素直になってくれたのは、一瞬だけだったか。
オミが残念そうにカゲミツの髪を指で弄る。
きらきらと月夜に反射する金髪がとても綺麗だ。

「そろそろ帰ろうか」

もう少し月夜に照らされるカゲミツを見ていたかったが、ここに来て随分な時間が経ってしまっている。
腕を離して、右手でカゲミツの左手を取りぎゅっと握る。
オミが一歩踏み出すと、素直にカゲミツも歩き出した。
言葉ではああ言ってるが、こういうところは素直だなとオミは思う。
階段のドアを開こうとしたとき、カゲミツが突然距離を一歩詰めた。

「俺だってお前のこと、」

好きだ。
ぼそりと呟かれた普段なら聞けないような言葉にぽかんとしてしまう。
恥ずかしそうに目を伏せるカゲミツを、とりあえず今すぐ抱き締めよう。

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