救出大作戦!

「ここからだして」

まだ小さかったヒカルがよく言っていた言葉を思い出して、ぎゅっと拳を握る。
ヒカルが退院と同時に宮家に連れ戻されてしまった。
何も出来なかった自分の無力さが悔しくて堪らない。
アイツを救えるのは、自分だけだと思っていたのに・・・。

「ヒカル・・・」

声に出したところでもう一生会えない。
頭では分かってはいるがそう簡単に気持ちの整理が出来るはずもなかった。
いつかはこんな日が来るんじゃないかとは漠然と考えていた。
いつかは、なんて曖昧な言葉でちゃんと考えようとしなかった自分の愚かさに今頃気付く。
ずっと守ってやるつもりだったのに、その瞬間はあまりにもあっさりとやってきてしまった

「何凹んでんだよ」

さっきまでソファーでパソコンを触っていたカゲミツが声を掛けてきた。
部隊に入った当初はそこまで高くなかった技術もヒカルと組んだことによって大幅にスキルアップした。
そこまで考えて、結局行き着くのはヒカルのことなのかと笑いたくなる。

「こんなところでウジウジしててもどうしようもねぇだろ」

お前らしくねぇと背中を叩くカゲミツに何も返すことが出来ない。
俺らしくないといっても、俺に何が出来るのか分からなかった。

「ヒカルを助けに行きましょう」

いつの間にか周りに集まっていた隊員たちに目を丸くする。
タマキの言葉にみんながこくりと頷いた。

「隊長だけじゃなくて僕たちの為にも」

ユウトがタマキの言葉に続く。
彼らにとっても、ヒカルは大切な仲間なんだ。

「僕、もうワゴン車で生活するの飽きちゃったー」

アラタはカゲミツと共にしばらくワゴン車で生活している。
カゲミツはいつも一緒にいた相棒がいなくなったのだ。
寂しくてアラタにでも頼りたくなるのは当然かもしれない。

「俺たちもう檻の中に入れられるようなことやっちゃったんだし」

ならいっちょやりますか、とトキオが椅子から立ち上がった。

「ヒカルは隊長を待ってるはずです」

行きましょう、タマキに差し出された手を思わず掴んでしまったのだった。


宮家のパーティーが行われるとカゲミツに聞いたのは5時間前のことだった。
宮家と関わりのあるイチジョウ公爵とカゲミツはそのパーティーに招待されていた。

「チャンスは今日だ」

カゲミツがハッキングで手に入れた宮家の見取り図をテーブルに広げる。
ご丁寧にSPの場所まで調べ上げているのはさすがヒカルの相棒だ。

「俺が入ってまず発煙筒で中を混乱させる」

カゲミツが見取り図を指差しながら次々と指示を出していく。

「タマキとトキオは裏口のSPを気絶させてくれ」

侵入経路から脱出経路まで緻密に計算された計画に舌を巻く。
ここ最近寝不足だと言っていたのはこれのせいだったのかと漸く納得した。

「アラタはしんどいけどヒカルを出口まで引っ張っていってくれ」

煙で混乱する中すばしっこく動き回れるのはアラタしかいない。
さすが部隊に指示を出す諜報員だ。

「俺はどうすればいいんだ」
「キヨタカに指示を出すなんか変な気分だな」

カゲミツはそう言いながら説明をしてくれた。

「キヨタカは出口の前で立ってろ」
「それだけなのか?」
「王子様は一番かっこいいところで登場しないと」

言おうと思っていたことを取られたらしいカゲミツがアラタの頭ぐりぐりとしている。
全員で配置を確認して、ヒカルのいるパーティー会場へと移動した。

カゲミツはいつものツナギから正装に着替えていた。
こうしているといつものカゲミツとはまるで別人だ。
トキオからイヤモニで報告が入る。
どうやら裏口は無事制圧出来たらしい。
今から始まる、カゲミツのその声と同時にみんなに緊張が走った。


「緊張してる?」

隣にいるアラタが無邪気な顔で聞いてくる。
無表情を装っているがアラタは本当に人の感情を読み取るのが上手い。
痛いところをつかれたと笑うと楽しそうに笑った。

「絶対連れてくるから」

アラタはそう言うと、合図がされた方向に走り出した。
いよいよだ、一度目を閉じて呼吸を落ち着かせる。
パーティー会場から食器の割れる音や悲鳴がひっきりなしに聞こえる。
みんな大丈夫だろうか、今更になって不安になる。

「アラタがヒカルを連れ出した」

カゲミツの声が聞こえて一気に鼓動が早くなる。
もうすぐ、ヒカルに会える。
もう一度深呼吸すると、アラタの少し高い声が聞こえた。

「ヒカル君こっち!」

アラタはそう言うとヒカルをこちらに押し付け、声をあげながら違う方向へと走っていった。
無事逃げ切れよ、そう心で願って目の前のよく知る腕を取った。

「次は絶対離さない」

煙でまだ前が確認出来てないヒカルは声を聞いてビクリと震えた。

「キヨタカ・・・」

心底驚いた声をしているが今は説明している時間がない。
そのまま腕をひいて出口に向かう。
途中、なんでというヒカルの震えた声が聞こえた。

「大人になるまで待てと言ってただろ?」

それにみんなお前を大切に思ってくれているんだ。
そう付け加えると、走りながらヒカルが俺の腕をぎゅっと掴んだ。

「会いたかった」

今にも泣き出しそうなヒカルを抱き締めたかったが逃げる方が先だ。
一瞬だけ唇を掠めて走る速度を上げた。

二時間後、へとへとになったみんなと驚いた表情を浮かべるヒカルがミーティングルームにいた。
カゲミツは騒動巻き込まれたということでまだ会場に残っている。
自分たちの犯行だとバレてないようだと連絡が入っていた。

「さすがに煙の中は走りにくかったよ」

アラタがけほんと咳をして、タマキが背中を摩っている。
他のみんなもぐったりとしているが、表情が嬉しそうだ。

「ヒカル君、おかえり」

ユウトがニッコリ笑って手を差し出した。
ヒカルもはにかんだ笑顔でそれに答える。

「ヒカル君がいない間僕がずっとワゴン車にいたんだよ」

やっと戻ってきてくれたとアラタはヒカルの腰に抱き着いている。
他のみんなからも次々とおかえりと声を掛けられて、ヒカルは恥ずかしそうにしている。

「俺、戻ってきてもいいのか?」

伺うように周りを見るとみんな力強く頷いてるのが見えて、ヒカルは安心したように笑った。

「さっきも言っただろ、お前は大切な仲間なんだ」

最後に俺の顔を見たヒカルに優しく言ってやると、涙をぽろぽろと溢れさせながら抱き着いてきた。

「キヨタカ・・・」

馴染みのある体温と心地好い声に、ヒカルが帰ってきたのだと実感する。
みんなが見ていることも忘れ、ずっと触れたかった背中に腕を回す。

「僕たちがいることを忘れないでね」

泣き顔にキスを落としたくなって顎を捕らえたところでアラタが止めた。
ヒカルにキスをしたいが、その可愛い表情は自分だけのものにしておきたい。

「カゲミツも無事帰ってくるそうだ」

携帯の画面を閉じたタマキが柔らかく微笑んだ。
それにつられヒカルもみんなも安堵の息をついた。

「みんな、本当にありがとう」

また泣き出しそうになったヒカルの頭をアラタがよしよしと撫でる。
カゲミツがまだいないが、いつものJ部隊に戻ってきたようだった。

「今日は遅いし解散としますか!」

ポンとトキオが手を叩いて俺とヒカル以外を部屋から追い出す。

「ということで戸締まりお願いします」

茶目っ気たっぷりにウィンクをしてトキオは扉を閉めた。
やっとヒカルと二人っきりになれた。

「こんなことして大丈夫なのかよ」

バレたらクビじゃすまねーぞと心配そうな顔のヒカルに今度こそキスを落とす。

「捕まってもいいから俺はお前といたい」
「・・・バカ、捕まったら意味ないじゃん」

そう言ってヒカルは首に腕を回し、俺はねだられるままにその唇にキスをした。
久しぶりのキスの味は、自分が覚えているよりもずっとずっと甘かった。

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