「タマキ」 そう呼び掛けると、いつも柔らかい笑顔で近付いてきてくれる。 ずっとタマキが好きだった。 だからこの状況はこの上ない幸せなはずだ。 近付いてきたタマキを隣に座らせ、お風呂上がりの火照った頬に口付ける。 恥ずかしそうに目を伏せるその表情は、今はカゲミツしか知らない。 そう、今は。 「好きだよ」 ありったけの気持ちを込めて伝える。 二人で暮らし始めた日から、一日も欠かしたことがないが、タマキの反応はずっと変わらない。 「ありがとう」 ただそう言って微笑むだけなのだ。 「・・・ありがとう、か」 決してタマキは俺も、とか好きだ、とか感情を見せてはくれなかい。 それは二人で抱き合うときもそうだった。 腰を打ち付けて、情けないくらいの感情を伝えてもタマキは変わらない。 誘えば首に腕を回してくれるし、タマキからキスをねだってくることもしばしばある。 ずっと、ずっと欲しかったものなのに。 疲れて眠るタマキを見ているときに感じる空虚は何なんだろう。 「カナエ・・・」 眠るタマキから出る名前は、いつも自分じゃない。 「お前はカナエの代わりでしかない」 そうヒカルが忠告してくれたが、それでも構わないとカゲミツは思っていた。 身代わりにしてもいい、ただ・・・ 一万回のキスよりも 好きだというたった一言で、俺は救われるのに。 それが例え、偽りだったとしても。 back |