放課後、タマキが帰ろうと下駄箱の前に立つと横から声を掛けられた。

「タマキ君、だよね?」

クツを履き替えようと落としていた目線を上に上げると、ニコリと微笑まれた。
確かこの前昼休みにカゲミツと会った時に隣にいた子だ。
状況が飲み込めずぱちりと目を瞬かせると、彼は楽しそうに笑った。

「カゲミツの友達のオミです、よろしく」

差し出された手をとりあえず握り返す。
カゲミツの友達だというオミが、一体自分に何の用だろうか。
タマキが悩んでる間もオミは握った手を放さずに、タマキを観察している。

「確かに可愛い顔をしているね」

握られた手を軽い力で引かれ、思わず前のめりになったところをオミに支えられる。
何するんだという抗議は笑い声で掻き消された。

「そんな真っ赤な顔で言われても」
「は?!いいから放せよ」

体をよじってオミから離れようとすると手首を掴まれた。

「男にしては少し華奢だね」

まぁカゲミツほどではないけれど、とオミは付け加えて解放した。
一体オミは何がしたいのだろう。
遠くから運動部の元気な声が響く下駄箱には、オミとタマキしかいない。

「何もしないからそんなに怖がらないでくれる?」

ただカゲミツが珍しく仲良く喋ってる人を見たから気になっただけだよ、とオミは言った。

「珍しくって何だよ」

タマキはカゲミツと会ったときのことを思い出す。
最初は警戒心剥き出しだったが、今では笑顔を見せてくれている。

「カゲミツがあんな風に喋るのはこの学校にはほとんどいない」

その言葉に、刺が隠されている気がしたのは思い違いだろうか。
黙ってオミを見ていると、一瞬瞳が悲しそうに揺れた。

「俺はあんな風にカゲミツに話し掛けられたことはないよ」

その言葉にハッと息を呑む。
だってオミはさっき友達と言ったじゃないか。
タマキの考えが分かったのかオミはわざとらしい笑みを浮かべた。

「俺は友達だと思ってるよ」

カゲミツはそうは思ってないみたいだけど、と自嘲気味に笑った。

「そんなの、辛いじゃないか」

知らず知らずのうちに握っていた拳に力が入る。
自分に対するカゲミツの態度を見ていると、とてもそんな風には見えなかった。

「俺がカゲミツと話してやるよ!」

思い立ったらすぐに行動!
走り出そうとしたタマキの腕をオミが掴んだ。
勢いがついた反動でタマキがの体がくるりと向きを変える。
その瞬間、頬に温かい感触がした。
一瞬の間を置いて、それがオミの唇だと気付いた。

「な、何するんだよ・・・!」
「ほら、真っ赤な顔して」

体を離したオミが楽しそうに笑う。

「男にキスされて気持ち悪い?」
「当たり前だろ!」

恥ずかしさと怒りで顔が真っ赤なタマキが叫ぶ。
オミはそれを聞くと満足そうにそうと言った。

「なんでタマキ君なのか、少し分かったよ」

オミはそれだけ言い残すと、去ってしまった。
でもカゲミツはあげないと小さく呟かれ言葉はタマキには届かない。

「一体何なんだよ・・・」

真っ赤な頬を押さえたタマキだけが、下駄箱に残された。

ねぇ、教えてよ
(カゲミツを夢中にする方法)
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