意地っ張りな彼

最近、どう見てもキヨタカは疲れていた。
度重なる任務の失敗に上層部から口うるさく言われているのだろう。
タマキは何も出来ない自分を悔しく思う。
デスクに両肘をついて考え事をしている目にはクマが見える。
ちゃんと眠れているのだろうか。
心配になって口を開きかけてやめる。
今自分が話し掛けると、更に疲れてしまうかもしれない。
タマキはそう考えて、ここ数日間キヨタカに話し掛けられずにいた。

「話し掛けてやれよ」

キヨタカを見て、ぎゅっと手を握り締めているとヒカルに言われた。
アイツ見栄っ張りだからこっちから言わないと、と苦笑している。

「考え事してるみたいだけど・・・」
「解散してからなら大丈夫だろ」

ぽんと肩を叩いてヒカルはソファーに座った。
ヒカルがそう言うなら。
タマキは早速今日の解散後、話し掛けてみることにした。

「じゃあ今日はここまで」

お疲れ様、とキヨタカがポンと手を叩いて解散を知らせる。
その言葉にカゲミツが大きく伸びをするのが見えた。
タマキはキヨタカをちらりと見る。
再び席に座り、難しい顔をして書類と睨めっこしている。
大丈夫だろうか、心配になってキヨタカを見ていると肩を叩かれた。

「大丈夫だ、頑張れよ」

ヒカルはそう小声で言うと、足早に部屋を出て行った。
それに連れられるようにして、他のみんなも部屋を出て行った。
気付くと部屋にはキヨタカとタマキの二人だけになっていた。

「あの、隊長?」

タマキがおずおずと話し掛けるとゆったりした動作で顔を向けた。
いつもの余裕のある表情とは、まるで違って見えた。

「隊長、今日は帰りませんか?」
「まだ少しやり残したことがある」

そう言いながら書類を手に取る動作は、とても効率がいいようには見えなかった。

「少しは休んで下さい!」

タマキがそう言うとキヨタカは少し驚いた表情で手を止めた。
キヨタカにこんな強い口調で言うのは初めてだった。

「そうは言ってもな」

それでもなお仕事を続けようとするキヨタカに、タマキは覚悟を決めた。

「体調を崩したら意味がありません」

そう言ってキヨタカの体を背中からぎゅっと抱き締める。
タマキからは滅多にしない行為に、キヨタカの手から書類がひらりと落ちた。
けれどキヨタカはタマキの腕に大人しく収まっている。
抱き締めた体はいつもよりも体温が高く感じて、キヨタカのおでこに手を当てる。

「熱があるんじゃないですか?」
「・・・バレたか」

少し責めるように尋ねると、バレないと思ったんだがなと苦笑が返ってきた。

「分かるに決まってますよ、・・・恋人なんですから」

言ってから恥ずかしくなって顔を俯ける。
キヨタカが嬉しそうに笑ったのが聞こえた。

「愛されているな」
「だから少しは俺を頼って下さいよ」

タマキ少し拗ねたような声を出した。

「俺のせいで上からいろいろ言われてるんですよね?」
「タマキのせいじゃない」

キヨタカは背中越しに抱き締めていた腕を解いて、タマキを自分の方に向かせた。

「俺の力不足だから、タマキが心配することはない」

そう言って笑うキヨタカは無理をしているように見えて。

「たまには弱音吐いてもいいんですよ」

タマキは思わずそんなことを言ってしまった。
そんなの格好悪いだろ、というキヨタカの口をキスで塞ぐ。
自分でも大胆なことをしたとは思うけれど、そうせずにはいられなかったのだ。

「格好悪くなんかないですから、」

俺も隊長の役に立ちたいんですと言葉がこぼれる。
敵わないなという声と共に体を引き寄せられる。
顔が見えないように固定されていることに苦笑がもれる。
・・・本当、見栄っ張りなんだから。

「あそこまでネチネチと言われるとな」

俺でも流石に気が滅入った、と小さな声が聞こえた。
キヨタカの顔を見ようとすると、ぎゅっと抱き締める力が強くなった。

「もう少し、このままでいさせてくれないか?」

そう言うキヨタカは少し子供みたいで、ちゃんと頼ってくれてるんだと嬉しくなった。


10分後、タマキを解放したキヨタカはさっきよりも顔色が良くなって見えた。
さぁ、今日は帰ろうと荷物を片付けている。

「今日は勿論うちに来るよな?」

あんなに可愛く誘ってきたんだから、責任取れよ?
耳元で囁く低く甘い声にどきどきする。
そんなつもりじゃ、と言いかけた言葉はキヨタカの笑顔の前に消えてしまった。

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