カゲミツーと呼ぶ声にどきりとして思わず机の下に隠れる。
周りの反応を伺うと、もう慣れてしまったのか何事もなかったかのような風景だ。
変に反応されるのも鬱陶しいが、ここまで慣れられるのも少し悲しい。
それはつまり、あいつが寄ってくることが日常の光景になっているということだ。
はぁ、とため息をつく。
俺だって、好きでこんなことをしてる訳じゃない。

「見ーつけた!」

そんなことを考えていると真横で声がして肩がびくりと跳ねる。
嫌々首を動かすと嬉しそうに笑っているオミの姿が目に入った。
はぁともう一度深いため息をつく。
それでも目の前のニコニコとした表情は変わらない。

「カゲミツはかくれんぼが好きだね!」

・・・お前から逃げてるんだって、と出かけた言葉をごくりと飲み込む。
言ったところで、どうして?と無邪気に返されるだけだ。

「お昼ご飯食べに行こう」

半ば引きずられるようにして教室を後にする。
今日も屋上に行けそうにない。
この前屋上で会った彼はいるだろうか。
よろしく、と笑っていたタマキの顔が脳裏に蘇る。
可愛かったな、そう思うと自然に笑みがこぼれていた。

「どうしたのカゲミツ?」

オミの声に思考を遮られ我に返った。
不審に思ったのか眉を寄せている。
なんでもないと返すと、不服そうだが引き下がった。

廊下を抜けて食堂に着くと売店の前には人だかりが出来ていた。
人混みは苦手だと滅入っていると、見覚えのある顔を見つけた。

「タマキ!」

考えるよりも早く、口が動いていた。
タマキがこちらを振り返り、俺を見つけると笑顔を向けてくれた。

「カゲミツ!」

人混みを避けてこちらへと向かってくる。
ニコニコとした表情に、胸が高鳴るのが分かった。

「よ、よう」

どきどきとした自分を隠し平静を装う。
タマキは久しぶりだなと笑っているので、バレてはいないようだ。

しばらく二人で話していると、腕をつんつんとされた。
なんだと思って見てみると、つまらなさそうな顔をしたオミがいた。

「カゲミツ、お腹空いたんだけど」

むーっとした表情で見下ろしてくる。
なら一人で食って来いよと言うと不機嫌さが増した。
それを見てタマキが引き止めて悪かったなと言って行ってしまった。
もう少し話していたくて伸ばした手は、届くことなくだらりと落ちた。

「・・・さっきの人、誰?」
「キヨタカのクラスの転校生」

はぁ、とため息をつきながらぶっきらぼうに答える。
あ、そうとさして興味のないように返された。
質問しておいて何なんだ、コイツ。
タマキとの会話を邪魔されたのも手伝って俺は少しイラッとしていた。
オミを置いて人がまばらになった売店へと向かう。




「あんなに誰かと親しそうに喋るカゲミツ、初めて見た」

ぽつり、寂しそうに呟いたオミの言葉は昼休みの喧騒の中に消えた。


君のとなり
(俺の指定席だと思っていたのに)
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