タマキは相変わらず屋上に来ていた。
一人のときもあれば、担任のキヨタカと二人で過ごすこともあった。
最初は教師と生徒ということで緊張していた。
しかし全く気にしない様子で話すキヨタカに、いつしか緊張もなくなっていた。

いつものようにキヨタカと屋上で話していたら、後ろでドアが開く音がした。
どきっとして振り向くタマキと、全く気にも留めないキヨタカ。
そういうところがタマキは好きだったが、ここは本来立入禁止だ。
ここで生徒と話しているなんてバレると、キヨタカの立場が危ない。
センセ!と小声で呼び掛けるも何だ?と悠長に構えている。
もう一度扉を振り返ると、太陽を浴びてきらりと光る金髪が見えた。
うーんと大きくあくびをしながら目を擦る彼と目が合った。
訝しげな表情がこちらを見る。
え、と瞬きをひとつしたときにキヨタカが口を開いた。

「ここは立入禁止だと言ってるだろ?カゲミツ」

カゲミツと呼ばれた彼はキヨタカを見るなり大きな声をあげた。

「お前だってここで何してんだよ!」

教師に向かってお前扱いだなんて。
タマキが驚いているのもお構いなしなカゲミツは噛み付く。
キヨタカはその全てを笑って受け流しているが。

「あの、・・・誰ですか?」

二人の言い争いが一段落したところで口を開く。
教師と生徒、と呼ぶにはあまりにも親し過ぎた。

「一学年下のカゲミツだ」

まぁ仲良くしてやってくれとキヨタカはカゲミツの金髪を掻き回す。
不機嫌そうなカゲミツがこちらをちらりと見た。
あからさまに、警戒されている。

「さっきから思ってたんだけど、お前誰だよ」

タマキが一学年上だと分かっていても、敬語を使う気などらしい。
そんなカゲミツにキヨタカがこつんとゲンコツをひとつ落とす。

「人前では敬語を使えとお父上に言われているだろ?」
「そんなもん関係ねぇよ」

べーっと舌を出す様子は、一学年下なだけとは思えないくらい幼く見えて。
二人のやりとりにタマキは思わずプッと吹き出してしまった。

「あ、笑ったな」

キヨタカに向いていた視線がタマキに向く。

「悪かった」

まだ少し笑いが残る口元を手で隠す。
そういえば自己紹介がまだだった。

「キヨタカ先生のクラスに転向してきたタマキです」

よろしく、と手を差し出すと一瞥して目を逸らされた。
笑ったことをまだ怒っているのかもしれない。
タマキが心配そうな表情を見せると、キヨタカが微笑んだ。

「コイツは元々こういう性格だから気にするな」

全く、いつまで経ってもガキなんだからという呆れ声にカゲミツがまたうるさくなる。
ぎゃーぎゃーと騒ぐカゲミツと軽く受け流すキヨタカ。
・・・まるで兄弟みたいだ。
そう思うと、込み上げてくる笑いを抑えることが出来なかった。
ぷふふふっと堪え切れずに漏れた笑い声に二人が止まる。

「また笑いやがって!」

ぎろりと睨みつけてくる瞳に笑って答える。
口は悪いが、きっと悪い奴ではない。
そう思ってもう一度手を差し出す。

「よろしくな、カゲミツ」

にこりと笑うと、急にカゲミツが大人しくなった。

「よろしく・・・」

おずおずと差し出された手を軽く握る。
カゲミツの白い肌が少し赤く染まっている気がした。

これってまさか、もしかし
(これがいわゆる恋に落ちた瞬間ってやつなのか?!)
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