キス、しませんか? タマキとカゲミツは二人でバンプアップに来ていた。 「こうやって二人で飲むの、久しぶりだな」 頬をかきながら照れ臭そうに笑うカゲミツにそうだな、とタマキも自然と笑みがこぼれる。 ここ最近はカゲミツの諜報の仕事が忙しかったり、厄介な任務が続いたりで二人で過ごす時間が取れなかった。 仕事以外で二人で過ごしたのは二週間前の休み以来だ。 その時間を取り戻すかのように、二人は話に花を咲かせた。 「ずっとここにいる気か?」 そうマスターに告げられたのは午前一時を回ったときだった。 明日は休みなんだから家でゆっくりしたらどうだと付け加えられ、二人で席を立つ。 ありがとうマスターと伝えると、ウィンクを返してくれた。 店を出て、暗い夜道を二人並んで歩く。 お酒が入っているせいか、タマキが楽しそうだ。 カゲミツはそんなタマキをもじもじとした様子で見つめていた。 左手を少し遠慮がちに伸ばしては、さっと戻す。 月明かりに照らされて見える赤らんだ頬は、きっとお酒のせいだけではないだろう。 カゲミツの手がまた様子を伺うように伸びるとタマキが優しくその手を握った。 カゲミツは驚いてタマキを見るが、タマキは前を向いたままだ。 繋いだ手を楽しそうに大きく振って歩いている。 タマキ、と呼ぼうとすると遮られた。 「遠慮するなよ」 俺たち恋人同士なんだから、という一言にカゲミツの足が止まった。 不思議に思ってタマキが顔を覗き込むとカゲミツは顔を赤くして頬をかいている。 あの、いや、その、と一人であたふたしているカゲミツににっこりと笑いかける。 「どうした?」 「いや、あの、・・・タマキがあまりにも可愛いこと言うから・・・」 う、あー、とカゲミツは意味のない言葉を発したあと、意を決したように大きく深呼吸した。 「・・・キス、しませんか?」 恥ずかしさから敬語になり、言うと同時に俯いてしまった恋人にタマキは愛しさが込み上げてきた。 遠慮するなと言ったばかりなのにと、笑みがこぼれる。 繋いだ手はそのままで、空いている手をカゲミツの肩に乗せた。 少し背伸びして目を閉じると、緊張した唇かゆっくりと降りてきた。 足を地面につけて目を開くと幸せそうな顔のカゲミツと目が合った。 月明かりに照らされきらきらと輝く金髪にタマキはある言葉を思い出していた。 「月が綺麗ですね」 突然そんなことを言われたカゲミツはきょとんとした顔をしている。 「昔の偉い人は"I love you"を"月が綺麗ですね"って訳したらしいんだ」 そう笑うとカゲミツがきょとんとした表情がどんどん赤くなるのがわかった。 「き、今日は帰んねぇからな!」 カゲミツはそう言うと、繋いだ手はそのままにてくてくと歩き始めた。 意味を理解して少し恥ずかしくなったタマキだったが、明日は休みだ。 少し熱くなった顔を手であおぎながらカゲミツに置いていかれないように足を早めた。 back |