悪夢の終わりに見えたのは、

監禁というには優し過ぎる生活を、カゲミツは相変わらず過ごしていた。
食事、トイレ、風呂だって付き添いがいるが不自由はしなかった。
最初はオミにタマキのことを問いただしたが答えはいつもはぐらかされてばかり。
そしてタマキのことを聞くと決まって不機嫌になるオミに、カゲミツが聞くことも少なくなっていった。
そんなある日のことだった。
オミは朝から用事があると言って出掛けて行った。
見張り役はずっと大人しくしているカゲミツが逃げ出さないと思ったのかうたた寝をしている。
(今日しかチャンスはない!)
そう思ったカゲミツはドアをゆっくりと開けて部屋を出た。
今まで意識していなかったが屋敷はカゲミツの想像以上に広かった。
人に見付からないよう慎重に歩く。
早くタマキを見付けださなければ、その思いだけだった。

「カゲミツ、俺に黙って何してるの」

廊下の角から様子を伺っていると、後ろから声が聞こえた。
びくりと一瞬肩が震えてゆっくりと振り返ると、笑顔のオミが立っていた。
顔は笑っているのに、目だけが笑っていない。
そんなオミにカゲミツは恐怖を覚える。
一人で出歩いたらダメだって言っただろ?とオミはカゲミツの腕を取った。

「お仕置きが必要みたいだね」

そう言うオミの表情は、まるで悪魔が笑っているようだった。
黙って手をひきいつもの部屋に戻ると、大きなベッドにカゲミツの体を押し倒した。
オミは驚いて目を丸くしているカゲミツの上に乗り上げると、さらけ出されている白い鎖骨に噛み付いた。
ちくりとした痛みにカゲミツは顔をしかめる。
ここに来てから、こんなに手荒な真似をされるのは初めてだった。

「ねぇ、カゲミツ。浮気は隠れてするものだよ」

表情は怖いのに、なぜか悲しそうな声色にカゲミツの頭が混乱する。

「・・・浮気ってなんだよ」

5cmの距離で会話を交わす。お互いの吐息がかかる。
カゲミツを見つめる悲しげな瞳に、心が惑わされる。

「タマキを見つけだして、一緒に逃げるつもりだったんだろ?」

その通りだったので否定出来なかった。
しかし悲しげな瞳を見てしまったカゲミツは肯定することも出来ずオミの視線から逃れようと顔を背ける。

「潔白なら、証明を見せてよ」

逃げないって、約束してよと指を取って指きりするように絡めた。

「報われない恋は寂しいだろ?」

だったら俺を選びなよとカゲミツの髪をかき上げた。
その手があまりにも優しいでカゲミツは黙ってオミを見つめるしかなかった。

「いい加減気付いてると思うけど、俺はカゲミツのことが好きだよ」

絡められた指にキスをされる。
突然の告白にカゲミツは固まった。目をぱちぱちと瞬かせている。

「だから俺から逃げるなんて許さないし、放さない」

オミはかき上げた額にキスを落とす。
その動作にどきりとしてしまったカゲミツは、自分の中で何かが崩れる音を聞いた。

「逃げない」

小さく呟かれたその言葉にオミは驚いた顔を見せた。

「お前を置いて行ったりしない」

もうお前を一人にはしない、カゲミツはそう言うとオミの頬に優しく触れた。
触れた部分が、ひどく熱を持っている。
それでもオミは小さく首を横に振った。

「信じられないのは、カゲミツのせいだよ」

だって、お前が好きなのはタマキだろと零れた言葉は震えていて。
あんなに好きだったじゃないかと言う声は揺れていて。
今までの行動を振り返って自分がオミをどれだけ傷付けていたのかと思い知らされる。
今までごめんと呟いた言葉とともに、カゲミツの目から涙が溢れた。

「愛してる、だから泣かないで」

オミの手が優しく金色に輝く髪を撫でる。
カゲミツはその手の暖かさに安心して笑みをこぼす。
その表情を見てオミもようやく笑顔になった。
先ほど噛み付いて出来た傷跡をぺろりと舐め上げる。

「痛い?でも俺はもっと痛かったよ」

でももう痛くないと笑うオミにカゲミツは目を奪われた。
まるで時間が巻き戻ったみたいだと心の中で思う。

「カゲミツは、俺のものだよね?」

答えはイエス以外認めないからといたずらっぽく笑うオミにカゲミツは頷く。

「離れていくなら壊すから」

耳元で囁かれた恐ろしい言葉にすら、ぞくりとしてしまったカゲミツは絡めた指をほどいてオミの背中に腕を回した。

by確かに恋だった様(狂気的独占欲のセリフ10題)
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