二人で出掛けるようになったのはカゲミツがはにかみながら映画に行かないかと誘ってきたのがきっかけだった。
それから食事に行ったり飲みに行ったりすることが増え、最近では買い物なんかにも行くようになった。
あまり外の世界を見たことがないカゲミツの為に、動物園や水族館に行ったりもした。
そんなある日、ヒカルにお前らデートしてるみたいだなと言われた。
確かにカゲミツを女の子に置き換えてみても違和感はない。
むしろ男二人で行く方が違和感があるくらいだ。
本当だなと納得すると今更かよとヒカルに呆れられてしまった。

(デートみたい、か…)
目の前でファストフードを美味しそうに食べるカゲミツを見ながら、この前ヒカルに言われたことを思い返していた。
今までそんな風に思っていなかったのに、そう言われるとつい意識してしまう。
ぼんやりしていたら、カゲミツがどうした?と聞かれて何でもないと首を横に振った。
何かあったら言えよと心配そうな顔で言うカゲミツにありがとうと返す。
デートみたいだと言われてストンと納得し、それに対して嫌な気持ちにはならなかったのだ。
普通男とデートしるみたいだと言われたら、いくら仲が良くてもそれは違うとなるんじゃないだろうか?

「この前、ヒカルにデートしてるみたいだって言われたんだ」

だからカゲミツにも伝えてみたら、飲んでいたジュースを吹き出しそうになって慌てて口を押さえた。
ゆっくり嚥下してからおずおずとカゲミツが口を開いた。

「そっか…今まで迷惑掛けてごめんな」
「迷惑?」
「デートみたいなんて言われたら気持ち悪いだろ?」

やはり男同士でデートみたいと言われたら、嫌悪感を抱くものなんだろう。
しゅんと俯いてしまったカゲミツにそんなことはないと言うと、戸惑いながら顔を上げた。

「俺は迷惑だとも気持ち悪いとも思ってないぞ」
「え…」
「カゲミツは気持ち悪いとか思ったのか?」

普通に問い掛けたつもりだったが、カゲミツには責めるように聞こえてしまったのかもしれない。
ブンブンと大げさなくらい顔を横に振ってそんなこと思ってないと言った。

「じゃあこれからも誘ったりして大丈夫か?」
「当たり前だろ」

心配そうなカゲミツ大きく頷いて答えると、安心したように再びハンバーガーを食べ始めた。

*

そんな数ヶ月前の会話をふと思い出しているのはあの頃からひとつ、変わったことがあるからだ。
きっかけはやはり、ヒカルに言われたデートみたいだという一言だった。
あれからどこへ行くにも、何をするにもデートのようなのかと考えるようになってしまった。
最初はデートしてるみたいな気持ちだったけれど、最近は本当にデートをしているような気持ちになっていて。
つまりはカゲミツに対して友情以上の気持ちを抱くようになってしまったのだ。
カゲミツの新たな一面を知る度に嬉しくなり、二人だけの時に見せる笑顔や優しさに気付けば惹かれていたのだ。
それと同時にカゲミツも自分と同じ気持ちだということに気付いた。
だけどカゲミツは決してそれを口にしようとはしなかったけれど。

そんなある日のことだった。
昼食を取りに出た帰り道、近所の公園で二人はコンビニで買ったアイスを頬張っていた。
夏の日射しの強い公園はさすがに子供だって遊んでいない。
ブランコに揺られながらガキみてぇとはしゃぐカゲミツを微笑ましく思っていると、ふと真顔になって名前を呼ばれた。

「今度の土曜、花火に行かないか?」

少し緊張しているのが分かる。
それを隠すためなのかカゲミツは目線を合わさずに言葉を続けた。

「お互い彼女もいないんだし、たまには友達同士で花火もいいんじゃねーかと思って」

そんなとって付けたような言い訳なんていらないのに。

「まだ友達って呼ぶつもり?」

だからこっちも何でもないように返すと、一瞬の間を置いてカゲミツが振り返った。
綺麗な琥珀色の瞳が驚いたように見開かれている。

「俺はずっとデートみたいなことじゃなくて、デートしてるつもりだったんだけど」

真っ直ぐに見つめ返すと今度は見開かれた瞳がゆっくりと瞬きをした。
まさかこんなことを言われると思ってなかったのだろう。
状況が整理出来ないのか、二人の間にはしばらく沈黙の時間が流れた。

「…俺は最初からデートしてるつもりだった…」

ようやく出た言葉は予想していたものと違うけれど、それよりも嬉しいものだった。

「じゃあ今度の土曜は花火デートだな」

浴衣でも着て行こうと提案するとまだ信じられないといった表情ながらもカゲミツが頷いた。
呆然としているカゲミツの腕を取ると途端に慌て出した姿に思わず吹き出す。

「そろそろ戻らないと隊長に怒られるだろ」
「あ、あぁ、そうだな」

そのまま歩き出すと引きずられるように歩くので一度足を止めた。

「花火の日、楽しみにしてるから」

今日聞けなかった言葉、あえて言わなかった言葉をその時には聞けるだろうか。
後ろで夢か?なんて呟きながら頬をつねっているカゲミツに帰るぞと言って、一瞬だけ手を重ねる。
するとようやく受け入れられたのかボンッと顔を赤くしたカゲミツに、これはヒカルに突っ込まれるかもしれないなと思いながらバンプアップに向けて歩き始めたのだった。

とある夏の日
ついった診断メーカーより
タマキからカゲミツへの愛の言葉:日射しの強い夏の日に、何でもないように「まだ友達と呼ぶつもり?」
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