もう少しで終わるから先に帰っていてくれないか?
出来たらクリームシチューが食べたい。
そう言って鍵を手渡されてしまえばノーとは言えず、タマキは買い物を済ませてキヨタカの家に来ていた。
シチューなんて作ったことがなかったけれど、食べたいと言われれば作ってあげたくなるのが恋人だ。
勝手知ったるキッチンに食材を置きながら、何度も読み返したレシピをもう一度確認し、食材を切り始めた。

タマキが確認しながらシチューを作っていると玄関のドアが開く音が聞こえた。
出迎えに行きたいところだがあいにく今は手を離すことができない。
しばらくしてキッチン来てただいまと言うキヨタカにすみませんと頭を下げた。

「玄関まで行きたかったんですが、今手が離せなくて…」
「そんなことはいい、それよりただいまと言っているんだが」

求められている言葉がわかり、小さくおかえりなさいと告げるとキヨタカはようやく満足げに笑った。

「おかえりと言われるのはいいものだな」

そう言って着替えてくるとキッチンを去った。
キヨタカの家には今まで何度も来ているが、こんな状況になるのはそういえば初めてだ。
なんだか面映ゆい気持ちになりながらタマキは料理を続けた。

初めて作ったシチューをキヨタカは何度も美味しいと絶賛しながら食べてくれた。
そのことは素直に嬉しいけれど、タマキにはひとつ気になっていることがあった。
軽く片付けをして晩酌をしようというキヨタカの隣に座る。
ワインを注ごうとボトルに伸ばした手にそっとキヨタカの手が触れた。
やはりどこか様子がおかしい。
シチューをリクエストするところからどこか不自然さを感じていのだ。
触れられた手の上にもう片方の手を重ねてキヨタカに向き直った。
いつもの自信溢れる表情とは違い、どこか儚げだ。

「どうしたんですか?」

格好つけたがりな恋人に真正面から聞いて答えてくれるかは賭けだった。
じっと目を見つめると、フッと表情を緩めた。

「いくら完璧な俺だってたまには疲れることもあるんだ」

そう言うと重ねた手が外されて背中に回された。
肩にはキヨタカの顔が乗せられていてホッとしたように大きく息をついている。
普段、引き寄せられるように抱き締められることはあっても、こんな風に抱き締められることはほぼない。
珍しいなと思うけれど、こんなキヨタカも悪くない。
自分も広い背中に腕を回し、あやすようにトントンと触れる。

「甘えてるんですか?」
「ああ、タマキに甘えている」

素直に返されると面食らってしまう。
けれどこんな姿きっと他人には絶対見せないはずだ。
そう思うと愛しさが溢れてくるから不思議だ。

「存分に甘えてください」
「そうさせてもらおう」

しばらくはそのままの体制でじっとしていたけれど、不意に背中に回された腕がもぞもぞと動き始めた。
何だろうと放っていると、つーっと背筋を指がつたいお尻に触れた。

「キヨタカさん!」

これはまずいと思って声を掛けると、すっかり自信を取り戻した表情のキヨタカがいた。
だけど。

「今日は存分に甘やかしてくれるんじゃなかったのか?」

そんな言われ方をされると、頼られているみたいで言い返せなくなってしまう。
結局、体力を使い切るまでキヨタカを甘やかしてしまったのだった。

頼られたい

「珍しく甘えてくるキヨタカと戸惑いつつ嬉しくてお兄さんぶっちゃうタマキ」というリクエストでした!

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