※キヨタカ×堕ちタマキです


ふらりと夜道を歩いていると見知った顔が視界に入った。
勝手なことはするなと言われているが最近退屈していたのだ。
何か面白いことが起こりそうな予感を感じて声を掛けた。

「あれ、J部隊の隊長さんじゃん」

その声にキヨタカがゆっくりとこちらを向く。
一瞬怪訝な表情を浮かべたが、それはすぐに消えた。

「タマキじゃないか、久し振りだな」

追われる者と追う者、もっと剣呑な空気になるかと思ったがキヨタカは至って普通に接してきた。
何か考えがあるのかもしれないが、考えたって分からないし面倒臭い。
それに今はそんなことどうだって良かった。

「最近退屈してるんだ」

そう言って近付いてもキヨタカは平然と構えている。
もしかしたらいきなり武器を持ち出して襲い掛かるかもしれないのに。
しかし古い記憶の中でも確かにこういう男だった。
だからキヨタカの腕に自分の腕を絡め耳元で囁いた。

「最近カナエが抱いてくれないんだ」

以前対峙した際、カゲミツにも同じ言葉を言ったことがある。
あの時のカゲミツはぎょっとした表情を見せた後、苦しそうに目を伏せていた。
だけどキヨタカは顔色一つ変えない。
驚きも動揺も軽蔑する様子もない。
ここでキヨタカに出会ったのは運命だったのかもしれないとタマキは思った。

「退屈しのぎに付き合ってくれない?」

誘うように見上げればキヨタカの唇がにやりと歪むのが見えた。

「退屈しのぎでは済まないかもしれないがな」

この男は本当に変わらない。
それに少し驚いているとキヨタカが歩き出して足が縺れた。

「俺に見惚れていたのか?」
「まさか」

聞き覚えのある問いかけに思わず過去の記憶が呼び起こされる。
あの頃は真っ赤になって否定するくらいしか出来なかったけれど今は違う。
自分も変わったのだと痛感させられ、なぜだか胸の奥がつんとする。

「退屈してたんじゃなかったのか?」

立ち止まったままいるとそう急かされたので、全て気のせいだと思い込み再び歩き始めた。

適当なホテルに入り、シャワーはどうするかと紳士的に聞いてきたキヨタカの口を塞いだ。
どうやらそれでスイッチが入ったらしい。
主導権は一瞬で奪われ、貪るようなキスに没頭していると気付けばベッドの上に転がされていた。

退屈しのぎでは済まないかもしれないと言ったキヨタカの言葉に偽りはなかった。
久し振りに充足感を覚えながらベッドに横たわっていると、キヨタカがタバコをくゆらせながら聞いてきた。

「いい退屈しのぎになっただろう」
「まあ悪くはなかったな」

きっと嘘だと分かっているだろうけれど、そこには触れずに聞き流してくれる。
その優しさもタマキの知っているものだった。

「また退屈になったらいつでも来るといい」

その優しさにまた胸がつんとして寝たふりをしてやり過ごしていると、キヨタカがタバコをもみ消した。
ベッドが大きく軋み、背中から覆い被さられる。
さっきまで吸っていたタバコの匂いがふわりと鼻を掠めた。

「それとも俺のところに戻ってくるか?」

こんなことを耳元で低く囁くなんて、ずるい。
俺とあんたは敵同士だとか、そこはとっくの昔に捨てた場所だとかいろいろな感情が頭の中をぐるぐると回る。
唯一出た言葉は震えてしまった。

「なんで、なんであんたはそんなに変わらないんだ…」
「どこにいようが、タマキはタマキだからな」

頭をポンポンと撫でる手つきを懐かしいと思ってしまうなんて。
カゲミツやアラタ、カナエですらも以前と同じように接してはくれないのに。
懐が広いを通り越してただのバカじゃないのか。
そう思ってはみるものの意図せず肩が震えてしまう。
そっと離れていった温もりを寂しく思いながら、シャツに腕を通すキヨタカの背中を見つめる。
昔はその背中に憧れたこともあったななんて思い出して自嘲気味に笑った。

「…俺は変わったんだよ」
「なら俺のところに戻ってくるといい、元のおまえに戻してやる」

なぜこの男は自信満々にそう言い切れるのだろうか。
一体あんたに何が出来るというんだ。
そんなことを考えているとキヨタカは服を着終わったらしい。

「帰るぞ」

その一言でタマキもようやく着替えに取り掛かったのだった。

「また会おう」

ホテルを出てまた何か言われるのかと身構えたがキヨタカはそれだけ告げて歩き始めた。
それは一体どういう意味があるのだろうか。
だんだん遠くなっていく後ろ姿をしばらく眺めてから、タマキも足を踏み出したのだった。
Crisis

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