お風呂も入り終えもう寝ようかとソファに座っていると、オミに突然手を取られこう言われた。

「爪を切ってあげる」

はあ?いらねーよ!と返すもオミはダメだと手を離してくれない。
爪ぐらい自分で切れるし夜に爪を切ってはいけないと言うし。
だけどオミは爪を切るの一点張りで埒が明かない。
だからなぜだと尋ねるとしれっとした顔でオミはこう言ったのだ。

「だってカゲミツの爪が長いと俺が痛いんだもん」

意味が分からずに顔を傾げる。
一応恋人なんだから爪なんか立てる訳ねぇと考えたところで気が付いた。
恋人ゆえに爪を立ててしまうのことがあるのだ。
普段は服に隠れているがその生々しい爪痕には見覚えがある。

「思い出した?」

無言で顔を赤くしていると見透かしたように聞いてきた。
だけど頷くのも何だか恥ずかしくてそのまま押し黙っていると、いいよね?と言って爪を切り始めた。
パチンパチンと爪切りの音だけが部屋の中に響く。
今、オミに爪を切られているということはつまりそういうことをするつもりなんだろう。
恥ずかしくなって手を少し引くと危ないだろと言われたが、その声すら蠱惑的に聞こえる。
俯いていると切り終えたらしくようやく手を解放された。

「足も切ってあげたいんだけど、今日はとりあえず手だけにしておこうか」

そんなに意識されたら我慢出来なくなっちゃった。
耳元でそう囁かれオミの顔を見ることが出来ない。
今度はエスコートするように手を取りベッドルームへと誘われた。

*

それからというもの爪を切ろうとする度にそれを思い出すようになってしまった。
普通に爪を切ろうするだけでオミにそれってお誘い?なんてからかわれるのも原因のひとつだ。
だからたかが爪を切るだけなのにオミがいないタイミングを見計らわないといけない、なんて面倒なことになっている。
それにオミも爪を切りながらちゃんと手入れしておかないとねなんて言ってくる。
しかも爪を切った後、ヤスリまでかけた上で自分の頬に爪を立ててよし大丈夫なんて言うのだ。

「何が大丈夫なんだよ」
「爪痕って結構痛いから」

瞬時にオミの背中についた生々しい爪痕を思い出して顔を赤らめてしまった。

「カゲミツのこと、愛してるからね」

そう言ってさあ行こうと手を取られる。
これからオミが爪を切っているのを見ても思い出すことになりそうだと考えながら手を引かれるのだった。
爪痕
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