冬が終わりを告げ、春の訪れを感じるこの季節になるとついあの日のことを思い出してしまう。
来年もその先も出来るだけ長く二人でいたいねと言ったアイツは今でも行方が分からないままだ。
あの時はあの約束は永遠のものだと思っていた。
でも今隣にいるのは違う人物だ。

「カナエの事を考えているのか?」

前を見据えたままそう言われ、この人には隠し事は出来ないと思い頷く。
そうかとだけ言って黙ったのはきっとキヨタカの優しさだろう。
しばらく黙ったまま歩いていると一本の桜の木が目に入った。
今年最初の桜に目を奪われていると、キヨタカが小さく息を吐いた。

「誰の許しを待っているんだ?」

核心を突く言葉にドキリと胸が痛む。
お互い最初は自分に空いた空白を埋めるだけの関係だった。
だけどいつしか失った相手の代わりではなく、キヨタカ自身に好意を抱くようになっていたのだ。
それはきっとキヨタカも同じことだろう。
けれどタマキにはまだ迷いを捨てきれなかった。
ヒカルはまだキヨタカのことを忘れていないかもしれないし、キヨタカだってまだヒカルを忘れられずにいるだろう。
それにカナエだってどこかで生きているかもしれない。
その可能性があるのに心移りしそうになっている自分を許すことが出来なかったのだ。
タマキが何も答えられずにいると、キヨタカが口を開いた。

「あれから三年が経ったな」

長かったのか短かったのか分からないけれど、月日は着実に流れているのだ。
桜の木からキヨタカに視線を移すと真っ直ぐに見つめられた。

「そろそろ俺もケジメをつける頃だ」

それはヒカルを思い出にするという事だろうか。
ジッと見つめ返すとおまえもそうしろとは言わないと前置きされた。
いつもは強引なくせに、こんな時だけ優しさを見せるなんてずるい。
戸惑っている事に気付いているようだったけれどキヨタカは意を決したように言った。

「俺はタマキが好きだ、これからも一緒にいてくれないか?」

びゅっと風が吹いて桜の花びら綺麗に舞い上がる。
まるで漫画のようなロマンチックな光景に、この人は自然さえも味方に付けてしまうのかと驚嘆する。
そしてそんな風に考えてしまう自分に心の中で苦笑する。
何度考えたってこの三年という月日が長いのか短いのかは分からない。
形はどうであれこの三年を共に過ごしたのはキヨタカで、気持ちが傾いているのは紛れもない事実だ。
冷たいのかもしれないけれど、そろそろカナエを思い出にしまう時かもしれない。
だからごくりと唾を飲み込んで頭を下げた。

「俺もキヨタカさんが好きです、これからもよろしくお願いします」
春の嵐

ついった診断メーカーより
キヨタカからタマキへの愛の言葉:最初の桜を見つけた日、小さく息を吐いて「誰の許しを待っているの」
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