憧れ≒恋心

「好き、なんです・・・隊長のことが」

いつだって優しくしてくれる隊長を好きになってしまいました。
そう言って拳をぎゅっと握り締め俯くタマキに俺は手を伸ばすこともなくただ黙ってその姿を見ているだけだった。

数時間前、タマキが珍しく話したいことがあると話し掛けられた。
なんだと問うと二人だけで話がしたいと少し赤く染まった顔で見上げられた。
最初は熱でもあるのかと思ったが、ゆらゆらと揺れる瞳を見て違うと確信する。
少し熱を帯びたその視線は俺のよく知っているものだった。

(おそらく、タマキは俺に惚れている)

分かった、あとでここで会おうと耳元で低く囁いてやるとタマキの顔が更に赤くなったのが見えた。

やはり俺の予想は間違っていなかった。
現に今、タマキはこうして震える声で俺に思いを伝えようとしている。

「隊長・・・?」

タマキに呼ばれて我に返る。
ずっと黙ったままだったせいか、タマキは不安げな表情をしている。

「・・・それはただの憧れだ」

ゆっくり眼鏡を押し上げながら言うと、タマキは小さく違いますと答えた。

「なぜそう言い切れるんだ?」

タマキの目をじっと見つめてやる。
悲しさや悔しさが混じった瞳が、何かを決意するように大きく瞬いた。

「この前隊長の胸で泣いてしまったときの、あの香りが離れないんです」

なんだ、それだけのことかと言い掛けた俺を目で制してタマキはぽつりぽつりと言葉を吐き出した。

「背中に回った隊長の腕の温もりが忘れられないんです」

俺はただじっと黙ってタマキを見つめる。

「何度も何度も思い出してしまって・・・、」

タマキはそう言うと顔を俯けてしまった。
かろうじて見える耳が真っ赤に染まっている。

「俺は、隊長のその大きな手を想像して・・・、」

そこまで言い終えるとタマキの顔からぽたりと水滴が零れるのが見えた。
きっと俺の手を想像してその手を汚してしまったのだろう。
二人の間の少し微妙な距離を詰めてタマキの顔を上げさせる。
恥ずかしさから涙に濡れた瞳は想像以上に扇情的で少し面食らう。

「俺が欲しいか?」

たっぷりと色気のある声で囁いてやるとごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。
絡まる視線は熱っぽく、俺の声にすら欲情してしまったのだろう。
タマキは無意識的に首をこくりと動かした。

「なら俺をその気にさせてみろ」

挑発するように笑うと、タマキが密着するように近付き、少し背伸びをして首に両手を回した。

「存分に楽しませてくれよ」

と言う俺の言葉は、タマキの強烈なキスに飲み込まれて消えた。

(愛してる、故にいじめたい)

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