奥手だと思ってはいたけれど、カゲミツがこんなにも奥手だとは思ってもいなかった。

付き合い始めて一ヶ月が経ったけれど、デートといえばカゲミツが家に来るばかり。
たまに外に出たといっても四六時中ツナギだから行ってもバンプアップくらいだ。
だから俺はこう言ったんだ。

「今度の休み、デートに行かないか?」

デートという言葉に目を丸くしはにかんだカゲミツだったがすぐに表情を曇らせた。

「人が多いところはちょっと…」
「そっか、カゲミツがどうしても嫌だって言うなら仕方ないな…」

しゅんとしてみせると慌ててカゲミツは全然嫌なんかじゃないと首を大げさなくらい振った。
その言葉を聞いてバッと顔を上げる。
約束だぞと小指を差し出すと、躊躇いながらもカゲミツはそれに自分の小指を絡めた。
そして、その約束の日が今日だったのだ。
ツナギ姿も絵になるカゲミツだがたまには私服だって見てみたい。
だからオシャレをして来て欲しいと伝えると困惑しながらも精一杯頑張ると言ってくれた。
どんな格好をしているのかとドキドキしながら待ち合わせ場所に向かい、言葉を失った。
黒のロングコートを纏い落ち着かない様子で時計を確認している姿は一人だけ違う世界にいるようだ。
道行く人の視線を一身に受けているのに、それに気付かずにそわそわとしている。
あまりのことにしばらく立ち竦んでいるとカゲミツが気付いた。
満面の笑みを浮かべ近付いて来てこれでいいかと頬をかいた。
コートの下はグレーのセーターの中にシャツを着ている。
そのシンプルさが元々カゲミツの持つ品の良さなどをより一層輝かせているようだ。
格好良過ぎて嫉妬すら浮かんでこない。
何も言葉を返せないでいると、変だったか?とカゲミツが眉を下げた。
だからよく似合ってると答えるとカゲミツが安心したように微笑んだ。

デートの間、カゲミツはどこまでも紳士的だった。
悪く言い換えれば奥手だ。
手を握るチャンスなんていくらだってあったのにカゲミツはそうはしなかった。
キスだってしようと思えば出来たはずなのに。
初めてのデートで浮かれていたのは自分だけだったのかと思っていると少し悲しくなってくる。
あまり人がいない夜道でもカゲミツは紳士的な態度を一向に崩そうとはしなかった。
次の信号を渡れば二人の帰り道は別々だ。
送って行くと言うかもしれないが、だからと言って送り狼になるとは考えられない。
だから意を決して歩く足を止めた。
どうした?と心配そうに顔を覗き込んできたカゲミツの顎を掴むんで自分の顔を近付ける。
我ながら大胆なことをしたと思うが周りには誰もいないし、そもそもは何もしてこないカゲミツが悪い。
掴んでいた顎を離すのカゲミツが何が起こったかわからないといったように目を瞬かせている。

「今日はデートだよな?」

しかも初めての、と心の中で付け加える。
まだ状況が読み込めないが不穏な空気を感じ取ったのか、カゲミツはコクコクと小さく頷いている。

「カゲミツはこういうことしたいと思わなかったのか?」
「タマキに嫌がられたらどうしようと思って」

したい気持ちはあったようだ。
ならばここでひとつチャンスだ。

「次の信号で帰り道が分かれるな」

どう答えるかとジッと顔を見つめると送っていくとさも当然のように答えた。
俺がするのはここまでだ。
この後送り狼になるのか、はたまた最後まで奥手なままなのか。
一体どうなることやらと思いながら再び歩き始めたのだった。
Too shy!
ついった診断メーカーより
ロングコートにセーターで顎をかまれてキスされているカゲミツを妄想してみよう。
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