今バンプアップに来たら面白いものが見れるぜ。
珍しくヒカルからメールが来たと思えば、書かれていたのはたったそれだけだった。
夜も深い時間に差し掛かりつつあるがメールで内容を聞いても答えは返ってこないだろう。
ヒカルからメールが来たという珍しさと明日は時間に余裕があることも後押しになり、タマキはバンプアップへと向かうことに決めた。

*

バンプアップのドアを開くとカウンターに見慣れた姿が目に入った。
ヒカルと飲んでいるのはカゲミツだったらしい。
二人で飲んでいる姿は至っていつも通りに見えるけれど。
何が面白いのかとヒカルに声を掛けるより先に、カゲミツがタマキの存在に気が付いた。

「タマキ!」

それは正に花が咲くという表現がぴったりな笑顔を見せたカゲミツに少し驚いていると、ヒカルもこちらを振り返った。

「来たのか」
「面白いものが見れるって言っただろ」
「まあいいから座れよ」

カゲミツの隣に座っていたヒカルだったが、一つ席をずれた。
どうやらカゲミツの隣に座れということらしい。
いつものでいいかと聞くマスターに頷いてスツールに座る。
カゲミツはその間、上機嫌なのかずっとニコニコとしながらその様子を眺めていたと思ったら唐突に相好を崩した。

「タマキは本当に可愛いな」

まるでキヨタカのようなことを言うカゲミツに驚いて噎せると大丈夫か?と心配そうな顔で覗き込まれる。
一体どういうことだと無言でヒカルに視線をやるとニヤニヤとした笑みが返ってきた。

「だから言っただろ」

これがヒカルのいう面白いものだと言うのか。
確かに酔ったカゲミツは珍しいが面白いというよりも戸惑いの方が大きい。
訳が分からずヒカルの方を見たままでいると、カゲミツが拗ねたような声を出した。

「ヒカルの方ばっかり向いてずるいぞ」
「はいはい、邪魔して悪かったな」

ほら、タマキはカゲミツの方向いてと促してヒカルは立ち上がった。

「だから邪魔者は帰ってやるよ」

そうニッコリと笑って手早く支払いを済ませ、俺今日ワゴンに帰らないから後はよろしくなと言い残してヒカルはバンプアップを出て行ってしまった。
面白いものがあるなんてただ呼び出す為の口実だったんじゃないのか。
そんなことを考えているとカゲミツがさっきとは打って変わって優しい口調で呟いた。

「タマキと二人で飲めるなんてすっげーしあわせ」

大げさなだと言おうと思って顔を見ると、カゲミツが本当に幸せそうな顔で微笑んでいて何も言えなくなる。

「俺でいいならいつでも付き合うぞ」
「本当か?」

じゃあまた一緒に飲もうなと小指を差し出される。
酔っているせいで感情がストレートというか、いつもより子供っぽい。
いつもは見れないカゲミツが可愛くて、わかったと言って自分の小指を絡めた。

指切りをした後、小指を幸せそうに眺めるカゲミツの目がとろんとしてきた。
このままここに置いておく訳にはいかないので支払いを済ませ、カゲミツの肩を叩く。

「カゲミツ帰るぞ」
「やだ、帰ったらタマキも帰っちまう…」
「俺も一緒に行くから、な?」

そう言うとふわりと笑ってわかったと立ち上がった。
が予想以上にアルコールが回っているせいか、ふらりふらりと身体が揺れている。
カゲミツの腕を自分の肩に回し、自分の腕はカゲミツの腰に回した。
苦笑いするマスターにドアを開けてもらいカゲミツを支えながらゆっくりと歩く。
ワゴンまで近くて助かった。
いくらカゲミツが華奢だといっても、自分より大きな人を支えながら歩くのは楽ではない。
地下駐車場まで来たと思って気を抜いてしまったのかもしれない。
支え切れずに大きく体勢を崩してしまったカゲミツを慌てて引っ張ると、自分が壁に押し付けられる形になってしまった。
間近でカゲミツを見上げ、改めて綺麗な顔だなんて場違いな感想が頭をよぎる。
大丈夫か、そう掛けようとした言葉はカゲミツの一言のせいで声にならなかった。

「好きだ」

さっきまでのふわふわとした雰囲気は消え、真っ直ぐに見つめられて。
えっ、と戸惑っているとカゲミツのまぶたがゆっくりと閉じられた。
支えていた身体がガクッと重くなりカゲミツが眠ってしまったのだとわかった。
なんとかカゲミツをワゴン車まで運びスヤスヤと眠るその寝顔を眺める。
好きだって、どういう意味だよ…
真剣な表情とその一言が頭のなかをぐるぐる回る。
明日、朝起きたら一番に聞いてやろう。
そう決めてタマキもカゲミツの隣で横になったのだった。

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