チケットをもらったんだと見え透いた嘘で誘われた映画の帰り道。
アルコールで火照った顔を冷まそうとカゲミツとタマキは人もまばらになってきた夜の道を歩いていた。
あと五分もすればバンプアップに着いてしまう。
だからタマキは足を止めてカゲミツに向き直った。

「あともう少しでバンプアップだな」

言われたカゲミツはきょとんとした顔を見せた。
ここまで歩み寄ったんだからと軽くムッとしたが、グッと抑えて言葉を続ける。

「カゲミツ、俺に何か言い残してることがあるんじゃないのか?」

え、と狼狽えるカゲミツの手をひいて、近くの公園に向かった。
静かな夜の公園なんて、シチュエーションとしてはこの上ないだろ。
ほらと言ってベンチに座るよう促す。
ここからは自分で頑張れよと真っ直ぐカゲミツを見つめると、慌てて目を逸らされた。
意気地なしと心の中で悪態をついたところで事態は好転しない。
カゲミツはドキドキというよりは何かしてしまったんじゃないかと不安な表情を浮かべている。
きっとこのまま座っていてもただ時間が過ぎていくだけだろう。
だから仕方なくタマキは口を開いた。

「カゲミツは俺のこと幸せにしてくれるんじゃないのか?」

静かに告げられた言葉にカゲミツが固まる。
こちらを見ずに真っ直ぐ前を見て言ったタマキの表情を窺い知る事が出来ない。

「なんでそれを」
「この前ワゴン車に行ったらお前がでかい声で叫んでるのが聞こえたんだよ」

映画の誘いが上手くいったことが嬉しくて、いろいろな告白のシチュエーションを考えていたのは一週間以上も前のことだ。
まさかその告白の練習を見られていたなんてと頭を抱えるカゲミツにタマキが向き直った。

「…期待しても、いいの?」
「え?」
「幸せにしてくれるのか?」

真っ直ぐにカゲミツの顔を見つめると、さっきまでの情けない表情から真面目な表情へと切り替わった。
任務の時のような真剣な顔にどきりと胸が高鳴る。

「タマキのことを幸せにするから、俺と付き合ってください」
「こちらこそ、お願いします」

そう言うとぱぁっと花が咲いたように明るくなったカゲミツにまたタマキの胸が高鳴った。

「俺、告白の練習を見てからずっとアピールしてたのに」

例えばみんなで移動する時隣に座ってみたりと言うタマキに、そういえば最近いつも側にいたなと思い返して納得した。
それがタマキのアピールだなんて思いもしなかった。

「気付くのが遅過ぎた」
「本当にな」

結構アピールしたつもりだったんだけどと言われ、カゲミツがごめんと眉を下げて謝る。
もしそのアピールに気付いていればお互い一週間以上ドキドキする必要がなかったかもしれない。
でもそれをスルーしてしまうのがカゲミツの良さなんだろうとタマキは思う。

「カゲミツ、人のいない夜の公園に恋人になったばかりの二人がいるんだけど」

さて、これは何が言いたいが分かるか?
挑戦的な瞳でカゲミツを見上げるとへ?と間抜けな顔をされた。
だから目を閉じてと言うとよく分からないままカゲミツは両目を閉じた。

「こういう時はこうするんだよ」

サッと掠めるように唇を奪いタマキは勢いよく立ち上がった。
喜びと驚きとで混乱しているカゲミツをよそに、じゃあ俺は帰るからとその場を立ち去ってしまった。
おやすみというタマキの声がどこか遠くに聞こえる。

「夢、だったのか…?」

誰もいなくなってしまった公園のベンチを見つめながら、カゲミツは唇に指で触れてみた。
さっきの柔らかい感触が思い出されて夢じゃないという現実がすとんと自分の中に入ってくる。
急いでタマキを追い掛けようかと思ったけれど、残念ながら追い付ける自信がない。
だから急いでポケットにあった携帯を取り出した。
3コール聞こえた後、ぷつりとそのコール音が切れた。
だから思いの丈を全部込めてカゲミツは叫んだ。

「タマキ、好きだ!!!!」

さっきとは打って変わってしおらしい声で俺もと返ってくるまで、あと3秒。

終わり良ければすべて良し

ついった診断メーカーより
カゲミツへのお題【気付くのが遅すぎた/「期待しても、良いの?」/告白の練習を見られた】
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