| 今日はキヨタカのおつかいで朝から本庁に行っていたカゲミツが昼過ぎにミーティングルームに帰ってきた。 両手にはぎっしりと詰まった紙袋を持っていて、中には華やかな包装紙が顔を覗かせている。 今日の日付は2月14日。 カゲミツが両手いっぱいに持っているのは、言わずもがなチョコレートの山だろう。 いっぱいもらったなぁ、なんてトキオが呑気に声を掛けるとカゲミツは機嫌良さげにそれを見せた。 「なんか会う人会う人に受け取ってくださいとか言われちまって」 一個一個丁寧に机に置いていく動作にタマキがイラっとしているのにも気付かない。 隣ではヒカルがこれすげー有名な店のやつじゃんなどと言ってはしゃいでいる。 教えられた値段の割に小さな小箱を珍しそうに眺めるカゲミツにタマキがツカツカと近寄った。 「良かったな、バレンタインたくさん貰えたみたいで」 「あ、タマキ！これとか有名な店のやつらしいんだ、一緒に」 食わないかと言おうとしたカゲミツににっこりと笑い掛ける。 いやにニコニコとしているのが妙で、カゲミツが黙ってタマキを見つめると小さな小包を取り出した。 「せっかくカゲミツにと思って作ったんだけど、それだけ貰ったら食べられないよな？」 タマキの手のひらの上にちょこんと乗っているもの。 それはこの日のためにとこっそり作ったバレンタインチョコだった。 「手作りだから、その手に持ってる有名店のやつよりおいしくないだろうしな」 これでも一生懸命作ったんだから、さすがにまずいだろうとは言えなかった。 自分で納得いくまで何回も作り直した、一応自信作だし。 スーッと冷えた空気にようやくカゲミツはタマキが怒っているのだと気が付いた。 こんな風にチョコレートを貰うのが初めてでついついはしゃいでしまったのがいけなかったらしい。 「タマキ、悪かった。だからそれを」 「いや、別にいいんだ」 その一言でこの険悪なムードが終わるかとホッとしたカゲミツ。 だけどタマキはにっこりと笑ってこう言ったのだ。 「みんなで分けて食べるから、カゲミツはその大量に貰ったチョコを食べろよ」 えっと小さくざわめく仲間たちを尻目にタマキは自分で包んだラッピングをはずし始めた。 虚しさがこみ上げて来て無茶苦茶に破ろうとすると、スッとそれを取り上げられた。 「何するんだよ」 「これはタマキが俺の為に作ったんだろ？じゃあこれは俺の物だ」 珍しく強気に出たカゲミツに言葉を失ってしまう。 多少ラッピングが崩れてしまったがカゲミツが大切そうにそれを両手で包む。 「どんな有名店のやつよりタマキが作ったチョコレートが一番おいしいに決まってるだろ」 しかも俺の為に作ってくれたんだから、何よりもうまいに決まってる。 そう断言したカゲミツにタマキのイライラした気持ちも治まった。 「ごめん、変に意地張っちゃって」 「俺もタマキが用意してくれてると思いもしなくて…ごめんな」 さっきの冷え切った空気から一変、チョコレートよりも甘い空気を垂れ流し始めた二人にヒカルが呆れ気味に声を掛ける。 「カゲミツー！これ貰ってもいいか？」 手にしているのは件の有名店のチョコレートだ。 躊躇う素振りも見せずに頷いたカゲミツが机の上に並べたチョコレートを指差す。 「元々みんなに分けるつもりだったし、トキオとかキヨタカ宛にもらったやつもあるんだ」 まだ中身を出していない紙袋をアラタが覗くと、確かにトキオやキヨタカ宛のチョコレートが入っていた。 リーダー凄いねと言うアラタにまあねなんてトキオが答えている。 カゲミツがずっと手に持ったままだったタマキのチョコレートをそっと胸ポケットにしまった。 「食べないのか？」 「俺の為に作ってくれたやつを、他の人に見られたくねぇ」 「バカ」 赤くなったタマキにカゲミツもらしくないことを言ったと顔を赤らめる。 そんないつもの二人を、他の仲間たちがやれやれといったような安心したような表情で見つめていたのだった。 Happy Valentine's day! |