カゲミツがタマキと付き合うようになって初めてのお宅訪問の日がやってきた。
もしかすると、もしかするかもしれない。
なんて淡い期待がないこともない。
が、カゲミツはそんな期待を胸の奥にしまいこんでタマキの家へと向かっていた。
だって、付き合い始めてまだキスすらまともにしたことがないのにその先をいこうなんて無茶だろ。
それにがっついて余裕がないところを見せたくもないし。
一人でつらつらと言い訳を並べていると、いつの間にかタマキの家の前まで来ていた。
緊張で震えそうになる指を抑えながらインターホンを鳴らす。
タマキと俺は恋人なんだと頭の中で唱えて心を落ち着かせていると、いらっしゃいと言う声とともに玄関のドアが開いた。
まだ散らかってるんだけどと苦笑いを浮かべるタマキに気にしないと告げて、カゲミツは部屋の中に踏み込んだ。
初めて訪れるタマキの部屋。
ジロジロ見てはいけないと分かっているのに、つい視線があちらへこちらへと移ってしまう。

「全然片付いてるじゃん」
「一応は片付けたからな」

恋人を初めて呼ぶんだから当然だろ。
そうはにかむように笑ったタマキにカゲミツの体温がドッと上がる。
ここは密室で、隣には最近思いが通じたタマキがいて…
カゲミツがここに来るまでに固めていた決心が早くも揺らぎ始めているのを感じていた。

とりあえず座れよと勧められてカゲミツは用意されていたクッションの上に腰を下ろした。
DVDを見る約束をしていたせいか、タマキのクッションもカゲミツのものの隣に置いてあった。
今は飲み物を取りに行っているが、タマキが座れば肩が触れ合うほど近いだろう。
以前とは違う距離感に嬉しいような、恥ずかしいような気持ちが湧いてくる。
タマキが戻ってきて、カゲミツが手土産に持ってきたお菓子を開いてDVDの鑑賞会は始まった。

途中触れ合う肩の温度や、動いたときに偶然重なった指に気持ちを揺さぶられはしたがなんとか平静を保ったままでいることが出来た。
タマキは気にならなかったのか、どこそこのシーンが面白かったと無邪気に映画の感想を述べていて少し寂しい。
一通り感想を話し終えると、二人の間にふと沈黙ができた。
まだこの緊張を気にしないほど二人の時間は長くない。
お互いに初めての状況に緊張してしまっているのだ。
だからカゲミツが口にした言葉に他意はなかったのだ。

「今日は寒いな」

気まずくなった時は天候や気候の話ならばハズレがない。
そこからこの変な緊張を解せたらと考えたカゲミツだったが、タマキは悪いと告げて突然立ち上がってしまった。

「少し待っててくれ」

そしてそう言い残して部屋を出て行ってしまった。
呆然とするカゲミツ。
タマキはどこに行ってしまったんだと気になるけれど、待っていろと言われた手前下手に動くことも出来ない。
何かを気に障るようなことを言ってしまったのかと心配にもなったが、タマキは怒っているようには見えなかった。
どちらかというと、申し訳なさそうな顔をしていた気がする。
タマキの考えていることが全く読めずに困惑していると、腕まくりをしたタマキが部屋に戻ってきた。

「風呂沸いたから入ってこいよ」
「え…?」

それってどういう意味なんだ?
確かさっき何の気なしに口にしたのは寒いという言葉だった。
だから風呂に入ってこいと。
…分かるんだけど、分からない。
単純に体を温めてこいという意味なのか。
それとも風呂に入った後、胸の奥にしまっていたような展開で互いを温め合おうというのか。
恐らく前者なんだろうが、風呂に入れなんて意味深過ぎるだろ!
つい深読みしたくなる男心だってわかって欲しい。
カゲミツの脳内で繰り広げられていた葛藤はタマキによって遮られた。

「早くしないと冷めるぞ」

無邪気な顔にその後の展開について想像するのをやめた。
そもそもそんなつもりじゃないしと心の中で虚勢を張り、笑顔でサンキュウと答えた。

しかし後から背中を流してやるよと風呂に乗り込んできたタマキに、カゲミツはまた悶々と頭を抱えることになるのだった。

ドギー&マギー

ついった診断メーカーより
カゲミツがタマキに寒いね、と言うと温かいお風呂に入れてくれました。
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