「ほら、カゲミツ。あーん」

そう言ってタマキはカゲミツの口元にオムレツの乗ったスプーンを近付けた。
タマキのことを好きなカゲミツにとっては願っても無い状況だ。
しかしカゲミツはフルフルと首を振り、タマキが強引に押し付けてくるスプーンを拒んでいる。

「なんだよ、俺のオムレツが食えないって言うのか!?」
「いや、そういう訳じゃねぇんだけど…っつーか意味が」

と途中まで言いかけた言葉を飲み込んだのは、タマキが赤い顔で下から睨みつけてきたからだ。
タマキとしては怒っているつもりなんだろうが、カゲミツからすれば赤い顔で上目遣いされてるようにしか見えない。
ひいては誘われているような錯覚まで起こしてしまいそうになる。
タマキは酔っている、タマキは酔っている…
何度か頭の中で繰り返してから、カゲミツはようやくタマキに向き合った。

タマキが強引なまでにカゲミツにオムレツを勧めている理由は、先ほどカゲミツが頭の中で繰り返したように酒に酔ってしまっているからだ。
他の部隊が手をこまねいていた組織をJ部隊が見事制圧したことの労いに、今日はキヨタカのおごりで飲み会が開かれていた。
さらに明日は全員休みにしてやるという大盤振る舞いだ。
いつもはなかなか羽目を外さないタマキですら多少飲み過ぎてしまうも頷けるだろう。
キヨタカやヒカルが今回はお前もよく頑張ったと言ってタマキの隣にしてくれたところまではよかった。
ついでにいつも邪魔してくるカナエとアラタを引き離してくれたのは二人の気遣いだろうが、今ではそれが仇となってしまった。
強引にあーんを迫るタマキ、拒むカゲミツ、それを咎める奴は誰もいないのだ。

「タマキ、嬉しいんだけどこういうのは軽々しくやっちゃいけないと思うんだ」

今時お固いと思われるかもしれないが、カゲミツは恋愛に関しては初心だった。
ただ食事を口に運ぶだけの行為だが、こういうのは恋人になってからやるものだと思っていたのだ。
それはカゲミツがタマキに恋愛感情を抱いているからこそこの発想に辿り着くのであって、タマキはただ友人同士のやり取りとしか考えていない。

「カゲミツが野菜食べてないんじゃないかと心配してるんだぞ!」

だから食べろと再び近付いてきたスプーンにカゲミツがぶんぶんと首を振った。

「いや、大丈夫だから!ダメだって!…勘違いしそうになるから…」

ついて出た言葉はカゲミツの本心だった。
今のタマキは酔っ払っている。
そう思うとついぽろりと本音がこぼれてしまった。

「…ればいいじゃん…」
「え?」
「ほら口開けて、あーん」

一瞬、タマキが素の表情で何かを呟いた気がしたが、すぐにさっきまでの調子を取り戻してしまった。
口を開け!と迫ってくるタマキにカゲミツは半泣きになりながら周囲を見回す。
が、やはり誰も助けてくれるというかこちらを気に掛けることすらしていないようだ。
ある意味二人の世界ではあるが、どうせならシラフがよかったな。
なんて考えを頭に過ぎらせながら、カゲミツはまたタマキとの攻防に引き戻されるのであった。

俺の飯が食えないというのか!
ついったー診断メーカーより
カゲタマお題『強引に あーん。』
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