難なく任務を終えた帰りのワゴン車の中。
珍しく隣に座ったカゲミツの左手に、偶然を装ってほんの少しだけ自分の右手を重ねてみた。
途端にビクリと揺れた肩、振り返った表情は微かに喜びも混じっているように見えるのに、戸惑ったように吐き出された言葉にタマキはこっそりと肩を落とした。

「ごめん…」

そんな言葉が聞きたかった訳じゃないのに。
申し訳なさそうに眉を下げるカゲミツに溜め息がこぼれそうになるのを必死で抑える。
ここは後部座席で、カゲミツとは反対側の隣はオミだ。
さらにみんなの視線は会話の中心であるアラタに集まっていて、誰も後部座席のことなんて見ていない。
そんな誂えたような状態の中、タイミングを見計らって重ねたというのにカゲミツはただごめんと謝るだけなのだ。
その手をこっそり握り返したって誰も何も言わないのに。
カゲミツの意気地なし、と心で悪態をつきたくなるのも仕方がないと思うんだ。

カゲミツが友情以上の好意を持っていることには気付いていた。
きっかけは何だったか覚えていないけれど、ふとした拍子に知ってしまったのだ。
同性から好意を向けられる嫌悪感はなかった。
それどころか好意を向けられると意識すると今まで見えてこなかったカゲミツの優しさが浮き彫りになって、気になる存在から好意を寄せる相手に変わるまでそう時間は掛からなかったのだった。
そんな訳で自分の気持ちに気付いたタマキは事あるごとにこっそりとモーションをかけているのだが、カゲミツはいつも困ったように眉を下げるだけなのだ。
例えば今ならこっそりと手を握り返して、後から好きだと一言くれればタマキはいつでも頷く準備は出来ているというのに。
ロマンチックさなんて求めていない。
欲しいのはたった一言、好きの二文字だけでいいのだ。

それならば自分から伝えてしまえば解決だと思われるかもしれない。
しかしタマキは自分から伝えるという発想を一番最初に捨てた。
そもそもカゲミツから好意を向けられていると気付いて、呼応するよう恋に落ちたのだ。
ならばカゲミツから気持ちを聞きたいし、男らしいところを見せて欲しい。
女の子同様、恋する男の子だっていろいろ複雑で難しいのである。

そんなことを考えているとワゴン車はいつもの地下駐車場に帰ってきていた。
カゲミツの左手は自分の足の上でしっかりと握り拳を作っている。
そんなに警戒しなくたっていいのに。
仲間と会話しながらでも少し強張った表情にまた溜め息をこぼしそうになり、慌ててぐっと飲み込んだ。
こういうときに、決まって思うことがある。
こんなカゲミツだから、好きになったんだ。
そう思うと広がりかけたモヤモヤがスッと霧散する。
そしてタマキはまた単純で難解なモーションをかけるのだ。
みんなが降りて、残すはタマキとカゲミツのみとなったワゴン車。
降りる振りしてカゲミツの耳元に口元を寄せた。

「今日飲みに行かないか?二人で」

赤い顔でコクコクと挙動不審に頷くカゲミツに微笑んで軽い足取りでワゴン車を降りる。
あの顔じゃアラタに突っ込まれるだろうなと思いながらミーティングルームへと急ぐ。
カゲミツは今日こそ気持ちを告げてくれるのだろうか、それとも今日も煮え切らないまま終わってしまうのだろうか。
その結末を握るのはカゲミツ次第、なんてね!

じれったい!

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