最初はお互いが身代わりだった。
キヨタカはヒカルを、タマキはカナエを。
お互い別の人を思いながらも手に余る寂しさから二人は一緒に暮らし始めた。
他の人から見たらそれはおかしなことだったかもしれない。
だけどどうしようもない寂しさを抱えた二人にはそれが支えになっていたのだ。
自分の気持ちを理解してくれる人がいる。
それは二人にとって、とても大きな意味を持っていたのだ。
そしてお互いが身代わりの関係だった二人の間にいつの間にか愛が生まれたのは必然だったのだろう。

*

テレビからは宮家の行事についてのニュースが流れている。
以前なら何となく気まずくてチャンネルを変えていたが今はそんな必要もない。
ソファーでテレビを見ているキヨタカをキッチンで野菜を切りながらちらりと窺う。
横から見ても端整な横顔は穏やかに流れてくるニュースを見つめている。
ずらりと並んだ人の中に見知った顔が画面に映った。
一瞬だけど隣にいる女性と仲睦まじそうに笑い合っていた。

「元気そう、ですね」

躊躇いがちに声を掛けたタマキにしっかりとした声でそうだなと返ってきた。

「幸せそうにしているな」

続けてそう言ったキヨタカは口元に笑みを浮かべていた。
その表情、その言葉に嘘はないのだと雄弁に語っている。

「アイツはアイツの幸せを掴んだんだ、俺も嬉しく思ってるよ」
「キヨタカさん・・・」
「こんな風に思えるようになったのは、タマキがずっと隣にいてくれたからだ」

プチンとテレビを消してキヨタカがタマキの方を向いた。
真剣な眼差しに見つめられて顔が熱くなるのを抑えられない。
ふいと顔を俯かせ、再び野菜を切り始めた手元に視線をやる。
それはタマキだって同じことだ。
キヨタカがいたからこそ、自暴自棄にならずに済んだのだ。

「・・・俺もです」

消え入りそうなほど小さい声だったけど、テレビの雑音が消えた部屋ではしっかりとキヨタカに届いた。

「次の休みは墓参りに行こうか」
「ハイ」

墓参りという言葉をちゃんと受け止められるようになったのもキヨタカのおかげだ。
そのときはアイツの好きだったクロワッサンを持っていってやろう。
そんなことを考えていると野菜を切る手元に影がさした。
顔を上げるとさっきまでソファーに座っていたはずのキヨタカが隣に立っていた。

「タマキ・・・」

名前を呼ばれると同時にふわりと身体を包まれる。

「危ないから離れてください」
「料理は後回しにしろ、隊長命令だ」

プライベートに仕事を持ち込むのはなしだと言ったのはキヨタカの方なのに。
都合よく使われた上司命令に大人しく包丁を置いて端の方へと動かした。

「こんなときばっかり、ずるいですよ」
「無性にタマキを抱きしめたくなったんだから仕方ないだろ」

文句を言いながらも腕を背中に回すと心地のよい声が耳元に降ってきた。
ぴったりとくっついたところから感じる体温が安心感を与えてくれる。
タマキともう一度呼ばれ、持ち上げられた顎と一緒に視線を上げる。

「好きだ」

真正面から受けた愛の言葉にゆっくりと瞼を閉じると、ふわりと唇が重なった。

仮初めから始まる愛もある

二人がこの関係になるまでは長い時間が掛かった。
だけど今は胸を張ってこう言える。
幸せだ、と。

斎藤36様(DC2のキヨタカend後・ほのぼのか、甘い雰囲気)
リクエストありがとうございました!
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