「もう知りませんっ!」

カッと血が逆流したみたいに熱くなって言いたいことを叫んで部屋を飛び出した。
我ながら子供みたいだと思うけれどあの人の前で大人ぶろうとしても無駄なことは分かっている。
他の仲間は心配しているかもしれないが、あの人はきっと余裕な顔して笑ってるんだ。
そう思うとむしゃくちゃした気持ちに拍車が掛かる。
俺の恋人だっていうのにあの人は今日もまた平然と俺以外の人間に可愛いなと言ったのだ。
男が可愛いと言われても嬉しくない。
だけど相手があの人だというだけで話が変わる。
別に可愛いと言われたい訳じゃない。
でもあの人に可愛いと言われると嬉しくなってしまう。
こんな気持ちになるのは俺だけでいい。
だけどあの人はいろんな人に可愛いなと言って回るのだ。

付き合い始めた頃はよくやめてくれと言っていた。
しかしあの人は可愛いものは可愛いのだからなぜ駄目なんだと丸め込まれてしまった。
だからだんだんそういう人なんだと諦めてきていた。
諦めたつもりでも俺以外に言っているのが聞こえると胸がずきずきするし、むかむかする。
諦めたつもりでも、心の底では諦めきれていなかったのだろう。
だから溜まりに溜まったものが爆発して、俺はこうして屋上に逃げ出してきてしまったのだ。

元々苦労が多くなる恋だとは予想していた。
もういっそ、このまま嫌いになって忘れてしまおう。
そうしたらこんな気持ちにだってならなくていい。
きっとみんなに急かされてもうすぐここに来るであろうあの人に嫌いだとはっきり言ってやるんだ。
ぎゅっと拳を固めると、階段を上がる靴の音が聞こえてきた。

(きた!)

「こんなところで拗ねてないで帰るぞ」

その言い草は恋人ではなくて子供を宥めるときみたいだ。
ほらと差し出された手を大袈裟に振り払う。
どんな顔をしているのか、驚いた顔でもしてたら決心がちょっと鈍りそうだ。
そう思って顔を見上げると、やはり拗ねる子供を見守るかのような苦笑いをしていた。

「もう知りませんって、言ったじゃないですか」

自分が思っていたよりも低くて冷たい声が出て内心驚いた。
頭上から聞こえるのはクスクスという笑い声だけど。

「俺は、キヨタカさんのことが嫌いです」

仕事中は名前で呼ばない。
自分で決めたルールを破り、あえて名前で呼んだ。
これは仕事ではなく恋人、いや元恋人の会話だからだ。
焦ったりするのかな。
焦ったところでもうどうにもならないけれど。
そんなことを考えながらキヨタカを見つめたが、面白いくらいに表情は変わらない。
黙ったままのキヨタカに最後の駄目押しをしようとしたら、すっと身を屈めた。
顔が、近い。

「だったらまた、恋に落ちればいいだろう?」

耳元でそう囁いや低く甘いその声は、きっと俺しか知らない。

(その瞬間、俺はあっさりとまた恋に落ちた)

また恋に落ちればいい

by確かに恋だった
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