真っ黒な空にスッと光が昇ったと思えばパッと開いて大きな花が咲いた。
適当な場所を見つけたタマキ達はかなり近い場所から花火を見上げていた。
咲く度に起こる歓声にタマキ達の声も混ざる。
みんな視線は空に釘付けだ。
先程までやいやいと言い合っていたアラタやレイも黙って空を見上げている。
しばらくその場所で黙っていたタマキの袖をふいにカナエが引っ張った。

「タマキ君、こっち」
「みんなは」
「はぐれたことにしちゃおう」

いたずらっぽく笑ったカナエに負けてみんなにバレないようにその場を離れる。
人の波をかい潜りながら二人は比較的人の少ない場所に出てきた。

「どうしたんだよ」
「どうせならタマキ君と二人だけで見たいなと思って」

また照れてしまう言葉とさらりとカナエは吐き出す。
しっかりと手はつないだままタマキは空を見上げた。

「綺麗・・・」
「来年も一緒に来れるといいな」

そうタマキが言うと一瞬間を置いてカナエがそうだねと答えた。
不思議に思ったタマキが視線をカナエに移す。

「来年の約束が出来るってなんか幸せだなと思って」

へにゃりとした顔はいつも通りだ。
しかしそれは幸せに満ち溢れている。
カナエの言葉に胸がきゅっと痛くなったタマキは絡めた指に力を込めた。

「来年なんて言わず再来年もその先もずっと一緒に来るぞ」
「・・・タマキ君には敵わないな」

無自覚な言葉に口説き落されたカナエが困ったように笑って、タマキの頬にキスを落とした。
空では一際大きい花火が観客達の視線を一人占めしていたのだった。

*

ふかふかと程よく沈むソファーの上でヒカルは空に上がる花火を見つめていた。

「ここから見ても意味がないだろ」
「そうか?ここからでもよく見えるじゃないか」

そう言ってテーブルに置いてあるグラスに手を伸ばす。
花火は少し蒸し暑いところで心地好い夜風に吹かれながら見るものだと思っていた。
そうは思っていてもヒカルは実際体験したことはないのだけれど。
涼しい部屋、美味しい食事、高級なお酒。
そんなものが目の前にあっても風情がないと思ってしまう。

「なぁキヨタカ、来年は俺らで警備行こうぜ」
「ヒカルがそう言うなら」
「約束だぞ」

人が多いし蒸し暑いと言っていたカゲミツを思い出しながらもわくわくとする気持ちを抑えられない。
苦笑するキヨタカの唇に特別だと言って自分のものを押し付けた。

*

ドンドンと地鳴りのように大きな音をオミとカゲミツは橋の上から見ていた。
始まってしまえばいくら誘導しようともみんなそこで見入って動いてくれない。
それにオミとカゲミツも近くに見える大輪の花につい夢中になってしまっていたのだ。
間近に感じる迫力に声を出すことすら出来ない。
口をあんぐりと開けて眺めていると服の袖を引っ張られた。

「俺はこんな形でもカゲミツとここに来れてよかったと思ってる」

花火の打ち上がる音で聞き取りにくいが、かろうじて聞こえた。
暗闇の中、花火に照らされた顔は珍しく真面目な表情だ。

「好きだよ」

一瞬訪れた沈黙の隙にオミが言った。
その直後、一際大きな花火がドンと音を立てて夜空に咲いた。

「     」

カゲミツの声は花火の音に掻き消されてしまった。
だけど一瞬見えた赤い顔と口の動きで何を言ったかは理解出来た。
オミは満足げに頷いてカゲミツの耳に口元を寄せる。

「もうちょっと頑張ったら明日は休みだ」

オミの言いたいことを理解したカゲミツはそっぽを向きながらもこくんと頷いて見せた。

*

みんながそれぞれの場所で花火を楽しんでいる頃、トキオはバンプアップの中で一人グラスを傾げていた。
こんな店にわざわざ花火の夜に来る物好きな客がいる訳もなく、店内にはトキオ一人のみだ。
遠くに聞こえた音で花火大会の開始を知った。

「あいつら楽しんでますかね」
「お前も行けばよかっただろ」

いつもと変わらぬ様子でグラスを拭いているマスターが答えた。

「ああいうところは苦手なんです」

手を振りながらへらりとトキオが笑う。
人も多いしと付け加えると、マスターが何かを思い出したように声を上げた。

「忘れ物があるんだ、取りに行くのついて来てくれないか?」
「店はどうするんですか?」
「こんな日に誰も来ないだろ」
「そーですね」

ぐいっとグラスの中身を流し込んで立ち上がると少しは否定しろと言うマスターの声が聞こえた。

二人揃って乗り込んだエレベーターは屋上に向かっていた。

「屋上にもストックしてるんですか」
「あぁ、ちょっとな」

マスターが曖昧に答えたとき、チンと音を立ててエレベーターのドアが開いた。
瞬間、ドンと大きな音がしてトキオが目を瞬かせる。

「実はうちのビルの屋上は穴場なんだよ」
「忘れ物は?」
「夏に花火を見ないまま終わるなんて、忘れ物してるようなもんだろ」
「目茶苦茶だなぁ」

とは言うものの目に映る花火が綺麗でトキオは口を閉じた。

「ここだと人もいなくていいだろ」
「そうですね」
「来年も連れてきてやってもいいぞ」
「考えときます」

生意気な口利きやがってと笑うマスターにトキオも笑顔で答える。

バンプアップの入口にCLOSEDと書かれたプレートが掛かっているなんて、トキオには知る由もなかった。

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